緊縛性ショックはクラッシュ症候群のモデルと考えられている。遷延性ショックにおける多臓器不全の治療戦略として薬剤による生存率の変化を検討した。C57BL/6J雄マウス11匹をペントバルビタール腹腔内投与麻酔後に両大腿を3時間緊縛し、解除後の生存時間を測定した。解除10分前にSP600125 を腹腔内投与し(SP群)、同量の溶媒を投与した11匹(溶媒群)と、同量の生理食塩水を投与した19匹(生食群)と比較した。その結果、SP群は溶媒群や生食群と比較し生存率に有意差がなかった。6α-メチルプレドニゾロンを投与しても生存率に有意差を認めなかった。 さらに、マウス8匹を麻酔下に両大腿を3時間緊縛後、1時間再還流させ(TR1群)ヒラメ筋・腎・肝・肺を摘出し、遺伝子発現変化をリアルタイムPCR法にて測定した。3時間再還流させたマウス(TR3群)と6時間麻酔をかけたマウス(C群)と比較した。その結果、ヒラメ筋ではc-FosとCox-2遺伝子発現が経時的に増加していた。腎ではc-Fos遺伝子発現が経時的に増加し、Cox-2遺伝子発現はTR1群・TR3群で増加した。肝ではc-Fos遺伝子発現がTR3群で増加した。Cox-2遺伝子発現に有意差はなかった。従って、肝・肺と比較して腎では早期から再還流の影響を受けることが示唆された。 また、TR3群のパラホルムアルデヒド固定パラフィン包埋組織切片について免疫染色を行い検討した。C群と比較し、抗c-FOS抗体染色はヒラメ筋・腎・肝で核の染色比率が上昇した。抗HSP70抗体染色はヒラメ筋・腎・肝・肺で細胞核の染色比率が上昇し、細胞保護作用が示唆された。 3時間緊縛したマウス(TR0群)とTR1群、TR3群、C群の血漿のd-ROMテスト値をフリーラジカル解析装置にて測定したところ、再還流後に増加していた。酸化ストレスが遠隔臓器障害に関与する可能性が示唆された。
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