【目的】本研究は、三黄瀉心湯によるメタボリックシンドローム(MetS)の発症抑制作用を明らかにし、関連する機序の解明を目指すものである。平成22年度は、三黄瀉心湯の脂質代謝異常の抑制作用の解明を試みた。 【方法】Wistar系雄性ラットを2群に分け、一方はコントロールとして通常飼料(通常食)を、他方は高脂肪飼料(高脂肪食)を3ヶ月間自由摂取させ、食餌性に高脂血症を誘発させた。高脂肪飼料は、通常飼料にラード、コレステロール、およびコール酸を添加したものを使用した。高脂肪食負荷群はさらに3群に分けられ、食餌負荷と同時に薬物の飲水経口投与を行った。薬物投与の内容は以下の通りである;水(溶媒)投与群、低用量三黄瀉心湯投与群、高用量三黄瀉心湯投与群。薬物投与終了後に採血を行い、胸部大動脈を摘出して血管反応性を確認した。 【結果】薬物投与終了後のラットの体重は、通常食+水投与群に比して高脂肪食+水投与群で有意に増加した。一方、高脂肪食負荷+三黄瀉心湯投与群では、低用量および高用量群ともに、通常食+水投与群に比して有意な変化を認めなかった。血中の総コレステロール値は、高脂肪食+水投与群で、通常食+水投与群に比して有意に高い値を示した。一方、三黄瀉心湯投与群では、高脂肪食+水投与群に比して総コレステロール値が低値を示し、その作用は用量依存性であった。また、摘出胸部大動脈標本を用いて血管反応性を試験したところ、三黄瀉心湯は、高脂肪食負荷により低下した内皮機能の改善作用を示した。摘出血管を用いた試験は、現在も継続中である。 【考察】本年度の研究結果により、三黄瀉心湯は、高脂肪食負荷による血中の総コレステロール値の増加を抑制し、体重増加を防止する作用を示すことが明らかとなった。この結果は、三黄瀉心湯がMetSのうち高脂血症の発症を抑制する可能性を示唆するものと考えられる。
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