研究概要 |
虚血性脳障害は,脳に酸素や栄養分を送る動脈が閉塞して生じる脳組織の循環障害であり,その対策が急がれている。一方,亜硝酸塩は野菜に多く含有される硝酸塩から口腔細菌によって生じ,体内に貯蔵され,虚血時にNOに変換されるNOドナーとしての作用を有することが明らかになってきた。このことは,硝酸塩や亜硝酸塩の摂取が虚血性脳疾患の予防や発作時の組織損傷を軽減できる可能性を示している。しかし,その作用メカニズムや疾患予防に適した摂取量等についての詳細な知見は得られていない。したがって,本研究ではラットの脳虚血モデルを用い,亜硝酸塩,硝酸塩および緑葉野菜の摂取による脳保護効果メカニズムを調査することを目的とした。ラットの大脳動脈閉塞再灌流モデルを用いて検討を行ったところ,脳虚血を起こした直後に亜硝酸塩を静脈内投与すると,ある一定の用量においてのみ脳保護効果が認められ,これより低用量および高用量では効果が消失することを確認した。また,亜硝酸塩を再灌流後に投与した場合は,どの用量においても脳保護効果は認められなかった。さらに,糖尿病態モデルラットでは亜硝酸の効果は現れず,高用量では障害の増悪が認められた。脳保護効果を有する用量の亜硝酸投与による大脳皮質内のNO濃度変化をNO電極によって測定したところ,正常血糖ラットでは持続的なNO濃度の上昇とこれに伴う脳血流量の増加が見られたが,糖尿病ラットではこれらの効果が認められなかった。以上の研究結果より,脳の虚血再灌流障害に対して亜硝酸塩が細胞保護作用を有することが推測されるものの,投与のタイミング,投与量,病態等によって現れる効果が異なることが明らかになった。
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