研究概要 |
【目的】亜硝酸塩は野菜に多く含有される硝酸塩から口腔細菌によって生じ,体内に貯蔵され,組織虚血時にNOに変換されるNOドナーとしての作用を有することが明らかになってきた。このことは,硝酸塩や亜硝酸塩の摂取が虚血性脳疾患の予防や発作時の組織損傷を軽減できる可能性を示している。脳梗塞患者には,.嚥下障害が合併症として生じる割合が高く,これに伴うQOLの低下や誤嚥性肺炎の発症が問題となっている。そこで慢性脳低灌流ラットの虚血性脳障害およびこれに伴う嚥下障害に対する亜硝酸塩・硝酸塩の効果について検討した。【方法】ラットの両側総頸動脈を麻酔下で永久結紮(2VO)し,慢性脳低灌流モデルを作製した。2VO処置の2週間後に嚥下反射機能の測定を行った。刺激液(水,クエン酸,カプサイシン)を咽喉に投与し,誘発される嚥下の回数を顎舌骨筋の筋電図にて計測した。亜硝酸塩・硝酸塩は飲料水に溶解し,嚥下反射機能測定の3週間前からラットに自由摂取させた。また,レーザドップラ血流計を用い,経時的に脳血流量を測定した。嚥下機能評価終了後,脳を摘出し,線条体でのtyrosine hydroxylase(TH)の発現を免疫組織染色により調査した。【結果・考察】2VOによる慢性脳低灌流状態は,ラットにおいて各種刺激液に対する嚥下回数を減少させた。一方,亜硝酸塩を投与した2VOラットでは嚥下回数の有意な回復がみられた。また,亜硝酸塩は,2VO直後の血流量の減少を抑制し,その後の血流の回復を促進する傾向が認められた。免疫染色の結果,2VOラットの線条体ではTH発現の減少が認められたが,亜硝酸塩はこれを抑制した。同用量の硝酸塩は効果を示さなかった。以上の結果から,亜硝酸塩の摂取は,脳虚血による組織障害および嚥下反射機能障害に対して改善効果を示すことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は,亜硝酸塩および硝酸塩摂取による脳虚血障害抑制作用について概ね実験計画に沿って明らかにすることが出来た。さらに,交付申請時には予定していなかった嚥下反射機能障害に対する効果についてもデータを得ることが出来た。脳虚血再灌流時の脳内NO動態の測定に関しては,技術的な問題によりデータの取得が遅れているが,今後実験を重ねることにより克服できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでと同様の方法に基づき,緑葉野菜の摂取による脳虚血障害抑制作用について実験計画に沿って明らかにする。脳虚血再灌流時の脳内NO動態の測定に関しては,技術的な問題によりデータの取得が遅れているが,今後実験を重ね,最適な条件を見つけることにより克服できるものと考えている。実験計画では,緑葉野菜の摂取による脳内遺伝子発現変化を,DNAアレイ法を用いて検索する予定であったが,予算の関係から定量PCRに変更して行うことを考えている。
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