研究概要 |
本研究では鍼灸刺激の炎症機転に関し、分子生物学的手法を用いて各種病態に及ぼすメカニズム解明を目的としている。 1)鍼刺激したマウス正常皮膚・筋肉組織では免疫組織学的検討にて鍼刺入部周囲に若干のマクロファージ等炎症細胞の遊走を認めるものの、NFkB等の分子マーカーの発現確認は困難であり鍼深度による変化は確認できなかった。鍼刺激が正常皮膚組織に及ぼす影響は炎症に関してはほぼ無いと思われる。 2)潰瘍性大腸炎モデルラットにおける鍼+通電刺激の影響:遠隔臓器への抗炎症作用について、DSS飲水腸炎モデルを用いて検討した。モデル動物に鍼通電刺激を隔日に実施しDSS投与後2週間の観察にて、臨床的スコアであるDAI(Disease activity index)の改善・IL-1β、IL-6のmRNA発現低下を確認した。またHE染色によりマクロファージ浸潤抑制・接着因子ICAMの発現抑制、及び病理学的改善傾向を認めた。これらの作用はワゴスチグミン投与にて相殺され、鍼刺激が自律神経系を介して腸管運動を抑制し炎症を改善する可能性が示唆された(Yutani T, Aoki M et al. Endocrine & Metabolic Agents in Medicinal Chemistry. 2013, 13(2): 122-131.)。 3)灸刺激による筋肉再生・創傷治癒促進作用:一方、灸刺激はheat shockであり、鍼刺激より強く局所炎症機転に関与すると考えられる。塩酸ブピパカイン筋肉注射による筋挫滅モデルにて灸刺激が、IL-6発現亢進を介して筋芽細胞のマーカーであるPax7のmRNA発現を亢進させ、病理学的検討でも灸刺激群での筋再生促進が認められた。創傷治癒モデルでも、蛋白分解酵素の発現亢進及びα-SMA陽性細胞の早期出現が認められ、灸刺激は肉芽組織の促進分解を促進することが示唆された。
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