心理的ストレス性高体温反応に関連して活性化する吻側延髄縫線核領域より中枢側の脳内部位を検討し、感染による発熱モデルによって活性化する脳内部位と比較した。 具体的には雄ウイスターラットを用いて(1)vehicle/stress群:vehicle腹腔内投与後、社会的敗北ストレスに1時間暴露する(ロングエバンスラットのケージに入れ、攻撃を受けたら、ついたてで仕切る)、(2)diazepam/stress群:ジアゼパム4 mg/kg腹腔内投与後、社会的敗北ストレスに暴露する、(3)vehicle /sham stress群、(4) diazepam/sham stress群、(5) lipopolysaccharide (LPS) 5g/kg投与群の間で、Fos(神経活動のマーカー)の発現を比較した。社会的敗北ストレスに暴露されたラットは約2℃の体温上昇を生じたが、この体温上昇はdiazepamの前処置により減弱した。Fosの発現がストレスによって増加し、diazepamの前処置により減弱した部位には、下辺縁皮質、島皮質、分界条床核、側坐核、内側視索前野、視床下部背内側部(DMH)、脳弓周囲野、背側縫線核、中脳水道周囲灰白質などがあった。その一方でLPSによる発熱時にFosが顕著に発現する部位のうち、終板器官と正中視索前核では、社会的敗北ストレスやdiazepamによりFosの発現は変化しなかった。 したがってストレス性体温上昇には、(1)末梢組織での炎症性情報を中枢に伝える終板器官や正中視索前核は関与しないこと、(2)情動、ストレス、覚醒、自律神経機能に関与する多くの脳内部位が関与し、特に、(3) 感染性発熱を伝えるDMH(DMHから吻側延髄縫線核領域に興奮性の神経が投射)は、心理的ストレスによる体温上昇にも重要な役割を果たす可能性が示唆された。
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