研究課題
これまでに申請者らは、病理学的検討から胃癌におけるERas発現は胃癌肝転移と有意な正の相関を示すこと(p <0.05)、また分子生物学的検討からERasは上皮間葉移行の誘導を介し、胃癌の転移・浸潤能を増強することを明らかにしてきた。本年度はPCR arrayを用いた、ERasによる転移促進因子の発現変化、および動物実験によるERasの転移能増強についての検討を行った。PCR arrayでは、ERas発現によるHGF、MMP2、ICAM1などの転移促進因子の発現増強が確認され、ERasは上皮間葉移行に加えて、これらの因子の発現増強により転移・浸潤能を増強している可能性が示された。動物実験は、免疫不全マウス(Nod-skid mouse)を用いたマウス肝転移モデルを使用した。胃癌細胞株は既に樹立したERas強制発現GCIY、およびコントロールベクターを導入したGCIYをコントロールとして使用した。マウスの脾臓に胃癌細胞を移植し(各群 N=10)、1週間経過後マウスを屠殺、肝臓の転移病変を病理学的に検討した。ERas高発現胃癌細胞株移植マウスでは10個体中5個体で脾臓に腫瘍の形成を認めた。一方、コントロールでは10個体中2個体に腫瘍の形成を認めた。肝転移については、ERas高発現胃癌細胞株移植マウスでは10個体中4個体で肝に転移病変を認めたが、コントロールでは肝転移陽性例はみられなかった。以上の結果からERas発現により胃癌の腫瘍形成能のみならず、肝転移能も増強されたことが示された。マウスを用いた動物実験の結果は、これまでの臨床病理学的検討および分子生物学的検討の結果を支持するものであった。
24年度が最終年度であるため、記入しない。