炎症性腸疾患(IBD)の病態解明および画期的な根治療法の開発を最終目標として、我々はこれまでに疾患フェノタイプを"記憶"し、生涯にわたり生体内に潜在し続ける"腸炎惹起性メモリーT細胞"に着目し、その維持機構におけるIL-7/IL-7受容体(IL-7R)シグナルの重要性を証明してきた。 本期間において我々はIBDに対するIL-7/IL-7Rシグナルターゲット療法の実現化のために、腸炎モデルCD4^+T細胞およびCD4^-細胞におけるIL-7/IL-7Rシグナル重要性の比較検討を行った。1)正常マウスおよび腸炎マウスにおいてIL-7Rαはナチュラルキラー細胞、樹状細胞、マクロファージ、好中球等血球系細胞に広く発現していたが、CD4^+T細胞に最も高発現していた。さらに腸炎の発症とともに他の血球系細胞ではIL-7Rαの発現が低下するのに対してCD4^+T細胞ではIL-7Rαの発現が亢進した。2)CD4^+T細胞のみIL-7Rα^<-/->マウス脾臓よりCD4^+CD25-T細胞あるいはCD4^+CD44-CD62L-T細胞をRAG-2^<-/->マウスに移入したところ腸炎の発症が見られず、腸管粘膜におけるCD4^+T細胞のアポトーシス亢進が見られた。3)IL-7Rα^<-/->x RAG-2^<-/->マウスに正常マウスのCD4^+CD25-T細胞を移入したところRAG-2^<-/->マウスをレシピエントに用いた群と同等の腸炎を発症した。 以上の結果からIBDの遷延性における重要な因子であるIL-7/IL-7RシグナルにはCD4^+T細胞におけるIL-7Rα発現が必須であり、他の細胞におけるIL-7Rαの発現は必須ではない事がわかった。炎症性腸疾患の分子ターゲット療法としてCD4^+T細胞におけるIL-7/IL-7Rシグナル阻害が有力な標的となり得ることが示唆された。
|