研究概要 |
昨年まで、K-ras野生型大腸癌細胞(GST-π陰性)に対する変異K-ras遺伝子導入細胞(GSTKO/RAS1-3)を作製し、このGSTKO/RAS1-3細胞ではGST-πが高発現するとともに、RAF/MEK/ERKカスケードが亢進して細胞増殖が促進し、JNK, p53が抑制されてアポトーシスが抑制されていることを明らかにした。また、GST-πsiRNAの導入細胞(GST-πKnockdown細胞)では、逆に細胞増殖が抑制され、アポトーシスが亢進していることを明らかにした。今年度は、GST-πとRAF/MEK/ERKカスケードやJNKなどのと相互作用を解析した。 (1) 変異K-ras遺伝子導入細胞における抗RAF抗体を用いた免疫沈降:変異K-RAS導入細胞 GSTKO/RAS1-3を可溶化して抗RAF抗体を用いて免疫沈降を行い、得られた沈降物を抗GST-π抗体でWestern blot解析を行った。その結果、21kDaにGST-πを示すバンドが認められ、GST-πがRAFと結合していることが示唆された。他のMAP kinase関連蛋白ではGST-πとの結合を示唆する結果は得られなかった。 (2) 変異K-ras遺伝子導入細胞における抗JNK抗体を用いた免疫沈降:同様に、GSTKO/RAS1-3細胞を可溶化して抗JNK抗体を用いて免疫沈降を行い、得られた沈降物を抗GST-π抗体でWestern blot解析を行ったところ、21kDaにGST-πを示すバンドが認められ、GST-πとJNKの結合が示唆された。 以上より、変異K-ras遺伝子の導入により誘導されたGST-πは、ERKと結合してRAF/MEK/ERKカスケードを活性化し、その一方ではJNKと結合してJNK, p53経路によるアポトーシスを抑制することが示唆された。
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