腸管の慢性炎症性疾患であるクローン病の原因は未だ解明されていない。一方で、好中球NADPH oxidaseの先天性機能異常のために、好中球による殺菌機能が障害される慢性肉芽腫症において、クローン病類似の消化管病変を発症することが知られている。このことは、好中球殺菌能の異常により、クローン病に類似した病態が発症し得ることを示している。腸内細菌叢に対する異常な免疫反応がクローン病の病態の中心をなしていると考えられており、好中球による腸内細菌叢に対する殺菌能の異常がクローン病の病態形成に関与している可能性が考えられる。本研究では、クローン病患者における好中球の殺菌能を系統的に調べ、好中球機能異常のクローン病の病態への関与を明らかにすることを目的として検討を行った。 腸粘膜内の好中球における好中球活性化マーカーCD69の発現をflowcytometryにて検討したところ、健常人サンプルに較べてクローン病において好中球数が増加しており、そのほとんどの好中球でCD69の発現を認めた。次に、クローン病の疾患感受性遺伝子として最初に報告され、単球系細胞における細胞質内の細菌センサー分子であるCARD15(NOD2)の発現をRT-PCR法にて検討し、好中球にもCARD15が高レベルに発現していることを確認した。この好中球におけるCARD15の機能を調べるために、好中球殺菌能の新しい機序として注目されている抗菌ネット(Neutrophil Extracellular Trap;NET)に注目した。しかし、単離した末梢血好中球をCARD15のligandであるmuramyl-dipeptide(MDP)で刺激したが、NETの誘導は認めなかった。以上より、クローン病では腸管局所において活性化好中球が病態形成に関与している可能性が示唆された。
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