研究課題
消化管の慢性炎症では、傷害を受けた粘膜修復のために、急速な上皮細胞分裂と機能細胞への分化が起きている。申請者らは潰瘍性大腸炎の再生上皮細胞で見られる糖鎖変化と、その主たる原因として複数の糖鎖合成遺伝子がDNAメチル化亢進により発現抑制されているということを見出した。そこで、傷害を受けた再生上皮の分裂促進およびその後の分化誘導に重要な因子がエピジェネティックな発現制御を受けているのではないかと考え、本研究ではこれらの因子の同定と、その機能解明を目指している。昨年度までに、マウス腸炎モデルを用いて、レトロトランスポゾン抑制に関与する遺伝子とホメオボックス遺伝子の発現が再生上皮で低下していることを見出し、更に瘍性大腸炎においてもヒトホモログの発現低下が同様に起こっていることを明らかにした。そこで本年度は、正常で見られるDNAメチル化によるレトロトランスポゾンの発現抑制が、炎症粘膜で解除されているか否かを検討した。潰瘍性大腸炎組織よりセルソーターを用いて再生上皮細胞を分離して得られる10万個以下の細胞で網羅解析をするために、次世代シークエンサー解析用ライブラリー作製のスモールスケール化を達成した。MeDIP-seqで得られたタグを、ゲノムにマップされた数で正規化後にCpGアイランドにマップされた数を比較した結果、正常上皮よりも潰瘍性大腸炎手術標本より分離した上皮細胞において、DNAメチル化レベルの有意な低下が認められた。また、このゲノムワイドな低メチル化は、Long interspersed nuclear element,L-1トランスポゾンの低メチルによることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
臨床検体を用いた研究においては研究目的に使用できる標本量に限りがあり、このことが研究推進のネックになる場合が多々あるが、本研究において、これまでは1千万~1億細胞は必要とされていた網羅的エピゲノム解析のためのChIP法を、10万個以下の非常に少数の細胞数で解析可能な系を確立した点は、目覚ましい進歩である。
これまでに確立したChIP法を用いて候補遺伝子のエピゲノム解析を行い、ヒストン修飾(H3K4、H3K9、H3K27等のメチル化、アセチル化等)によるエピジェネティックな転写制御機構とDNAメチル化(メチル基結合蛋白を利用して解析)との関連性を検討する。また、見出したエピジェネティック修飾のON/OFFと消化管上皮の増殖・脱分化との関連性について検討する。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)
日本臨床
巻: 70 ページ: 646-650
Gastroenterology
巻: 141 ページ: 2119-2129
21893119
巻: 141 ページ: 621-632
21669204