研究課題
肝細胞内の全microRNAの80%以上を占めているmiR122は肝細胞特異的に発現するmicroRNAであり、かつ肝癌でその発現が落ちているなどの背景から、肝細胞を正常な肝細胞として維持する機能を有している可能性が考えられる。本年度は昨年度に引き続き、miR122の肝細胞分化に与える生理機能をin vitroでのmiR122過剰発現系・ノックダウン系とmiR122の機能的ノックアウトマウスによりin vivoで解明した。とくにmiR122の機能的ノックダウンによって胎児性抗原であるAFPの発現が著明に増加してくることが判明し、肝細胞の脱分化が起きていることが示唆された。そのうえで、その分子機構を解明した。すなわち、miR122の低下によってCUX1という標的転写因子の発現が増し、その結果、普段AFPの発現抑制に働いている転写因子であるZBTB20の発現を低下させ、それによりAFPの発現が亢進していた。さらにCUX1は既報で癌細胞の悪性化に関わっていることが報告されており、それらのことから、miR122の発現低下が肝癌細胞の悪性度を増すとともにAFPの産生を増やしているうことが示唆された。この所見は臨床的にしばしば観察されるAFP高発現の肝細胞癌の予後が悪いことを分子生物学的に説明したものであり今後の分子標的治療の応用が期待される所見である。今後、miR122の機能低下がもたらす生理的意義をさらに追及していくが、メタボロームの手法を駆使して検討したところ、miR122の機能低下は細胞内のArginine濃度を増やしていることが示唆されており、アミノ酸と肝癌分化・悪性度の関連から検討を続けていく予定である。これらの所見はtransgenic mouseを用いたin vivo解析でも同様の知見を得ており、動物モデルでも検討を続けていく予定としている。
2: おおむね順調に進展している
肝特異的miR122の発現低下に伴う細胞性の変化を特に分化マーカーとして用いられるAFPの発現という観点から解析し臨床的観察結果を分子生物学的に説明できることが可能になった。
現在の研究をさらに進めて、メタボロームの観点から表現型の可視液を行ない、さらにmiR122の発現と分化との関連を検討する。現時点で大きな計画上の問題はなく順調に推進していけるものと考えられる。
すべて 2011 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 備考 (1件)
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