研究課題
肝臓は肝実質細胞(肝細胞)とそれ以外の非実質細胞によって構成される。本研究では、これまでに確立したマーカー分子による肝臓細胞の分離・同定技術を用いることで、特に肝星細胞と類洞内皮細胞の発生・分化機構を、細胞間相互作用という視点から解明することを目指す。肝障害時における肝星細胞と類洞内皮細胞の細胞間相互作用についても遺伝子改変マウスと肝障害モデルマウスを用いて明らかにする。発生・分化研究については、胎児肝臓の類洞内皮前駆細胞をLyve1抗体で分離し、単独培養を行なった結果、Lyve1とStab2の発現は著しく低下した。次に共培養系を行なったところ、シート状に増殖する類洞内皮細胞コロニーが認められ、Lyve1の発現も維持されていた。このことから、肝星細胞との細胞間相互作用が類洞内皮の分化促進に寄与したものと考えられた。一方、肝障害時の細胞間相互作用については、成体肝臓から調製した類洞内皮細胞と肝星細胞のin vitro培養を行ない、proinflammatory cytokineであるOSMを添加したところ、いずれの細胞も著しい形態変化と増殖を示した。特に肝星細胞は活性化しているものと考えられ、OSMが類洞環境の形成に強い影響を及ぼすことが示唆された。そこで、In vivoにおけるOSMの作用を検証するために、HTVi法により肝臓でOSMを発現させた。10μgの発現ベクターを用いると24時間以内にすべてのマウスが死亡した。OSMR KOマウスでは全く死ななかった1ことから、OSMの直接的作用と考えられた。死因として、類洞の環境が著しく悪化したこと、炎症反応が惹起されたこと、肝臓での代謝異常が誘起されたことが考えられた。さらに、1μgに発現ベクターを減らした結果、致死性は回避され、投与後7週間の肝臓を解析した結果、肝肥大が認められた。現在、類洞構造について詳細に解析を進めている。
3: やや遅れている
2011年1月下旬より11月中旬まで病気休職を余儀なくされたため。
OSMが類洞内皮細胞と肝星細胞のいずれにも作用しうるため、細胞間相互作用よりもOSMの直接作用が現れやすい。そのため、OSMR KOマウス由来の類洞内皮細胞と星細胞を組み合わせた共培養系により、細胞間相互作用に焦点をあてて課題を推進する。
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