研究概要 |
本研究は、臨床使用されているインターフェロン(IFN)のなかで、肝癌を最も強く予防できる可能性が明らかになってきたIFNβ(ベータ)の発癌防御機構を解析し、実効性の高い予防医療を確立することを目的とする。我々は高肝発癌モデルであるHBx遺伝子トランスジェニックマウス(HBx-Tg)を用いた解析で,インターフェロン(IFN)βは細胞増殖やDNA合成を抑制することで,HBx誘導性肝発癌を制御することを示した(J Hepatol.2008).さらに,Microarray解析の結果,HBx-Tgで有意に増強していたcyclin-dependent kinase (CDK) inhibitor (p21) mRNA発現が,IFNβ投与によって減少することが判明した.つまり,p21はHBxの肝発癌機構において重要な役割を担う分子であると示唆された。しかしながらp21は一般的には癌抑制遺伝子であり細胞増殖抑制作用を有する。このような、これまでに確立されたデータとは相反する結果の機序を解明するため、p21に対するHBxの作用およびそれに対するIFNβの働きについて解析した.その結果、HBxの作用によってp21は本来存在するべき核内から細胞質へ移行するが、IFNβの作用によってこの細胞質に存するp21が本来の存在部位である核内に移行することが確認された。p21Siを導入したHBx細胞ではコントロ-ルSiRNAを導入した細胞に比して細胞増殖の抑制が観察された。これは、通常は細胞増殖抑制的に作用するp21がHBxの作用によって細胞質に移行し、むしろ細胞増殖促進的に働くことを示唆するものである。免疫沈降反応によってHBxは細胞増殖促進作用を有するPKCαと連動していることが示され、更にIFNβはPKCαを抑制することによってp21の細胞内局在を制御していることが示された。このようにHBxによってもたらされる肝細胞内でのp21の発現異常が,最終的に発癌へ導く1つの因子であると考えられた.IFNβは,この様な分子機構の抑制によって発癌を抑えることが示唆された。
|