わが国におけるB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染者はおよそ150万人と推定され、HBV感染者の10-15%、HCV感染者の60-70%が慢性肝炎に移行するとされる。肝細胞がんは、HBV、HCVの持続感染による慢性肝炎や肝硬変を母地として発症することがほとんどである。最近では、早期発見と治療法の進歩により根治的治療がなされる症例が増えてきているものの、一方では肝細胞がんの再発が高頻度で認められ、このことが予後改善を図る上で大きな問題となっている。現在、肝細胞がんの再発予防策として、ウイルスの排除が最も重要とされ、それ以外にも化学療法剤などにより、がん再発予防の試みがなされているが、未だ十分な治療結果は得られていないのが現状である。 ストレス蛋白質(heat shock protein ; HSP)は生体において生体防御という極めて重要な役割を担っていることは良く知られている。そのファミリーの中で低分子量ストレス蛋白質(HSP27、HSP20、αBクリスタリン)は高分子量ストレス蛋白質と同様に分子シャペロンとして作用すると推測されているが、その詳細は未だ明らかとされていない。最近、私共はHSP27と同様に、低分子量ストレス蛋白質のHSP20とαBクリスタリンの総発現量と肝細胞がんの進行度との関連性について解析を進め、HSP20の総発現量と肝がんの進行度の間に負の相関性があることを見出した。この結果を基に、今回、低分子量ストレス蛋白質のHSP20の肝がん細胞における役割を検討した。その結果、HSP20を過剰に発現させた肝がん細胞の増殖機能は、そのコントロール細胞に比較し有意に低下していることを明らかとした。
|