C型肝硬変からの発癌、治療後の再発や転移には、腫瘍血管の新生や免疫抑制細胞の増加が関与している。肝癌患者の予後を改善するためには、肝癌の再発予防が重要である。本研究では肝癌による血管新生と免疫抑制に関与する骨髄系前駆細胞に着目し、その血液中、組織中での動態と癌部での分化誘導過程を解明することを目的としている。前駆細胞の血液から肝臓への遊走や血管内皮、免疫抑制細胞への分化に関与する分子を同定し、それを標的とする肝癌に対する新規治療法の確立を目指す。TIE2陽性単球(TEM)は、血管新生因子Angiopoietinの受容体(TIE2)を発現し、癌における血管新生への関与が報告されている。昨年度までに、肝癌患者では末梢血中、肝癌組織中でTEMが増加していること、TEMは肝癌周辺部に同定され、血管壁細胞近傍に集積すること、末梢血TEM頻度、肝癌組織中TEM頻度は、血管新生の指標(MVD)と有意に正相関すること、末梢血TEM頻度は肝癌の診断マーカーとして有用であることを報告した。今年度は、1)肝癌によるTEMの誘導機序の解明、2)TEM誘導に関与する因子と肝癌患者の予後との関連性を明らかにすることを目的とした。健康成人の末梢血からTIE2陰性単球をSortingし、種々のサイトカイン、造血因子刺激を加えて、TIE2の誘導の有無を評価した。M-CSF存在下でTNF-α、IL-1βの刺激を加えると、TIE2が有意に発現した。またヒト肝癌切除標本でM-CSF陽性と陰性の群を比較すると、M-CSF陽性肝癌患者では、陰性患者に比較して、TEM頻度が高く、MVD高値であり、術後の再発率が高かった。以上より、M-CSFと炎症刺激によって、肝癌患者ではTEMが誘導され、血管新生の亢進を介して再発率に関与することが示唆された。TEMとその誘導に関与するM-CSFは肝癌における治療標的となりうる。
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