研究課題
オステオアクチビン(OA)は大理石骨症モデルラットより単離された膜貫通ドメインを持つ糖タンパクである。我々は、コリン欠乏アミノ酸置換食飼育ラット肝において肝発癌よりも早期に発現亢進する遺伝子群からOA遺伝子を単離した。今年度は、四塩化炭素肝障害モデルを用いて障害肝におけるOAの役割について解析した。四塩化炭素を単回投与した急性肝障害モデルでは、OAの発現は肝障害のピークに遅れて亢進し、肝組織の壊死巣周囲に浸潤したマクロファージにOAの発現がみられた。浸潤マクロファージのほぼ全てがCD68陽性で、OA発現細胞の90%以上がCD68陽性であることから、マクロファージを欠損させたところ、肝障害が遷延化し、障害部位の修復が抑制された。またOA欠損マウスを用いた解析から、OA発現マクロファージは肝非実質細胞の再生に重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらにOA陽性マクロファージは肝硬変モデルでも線維形成部位周囲に浸潤し、また肝内に接種した肝癌結節周囲にも集籏していた。以上の結果から、OAは、傷害組織の修復過程において重要な役割を果たしていることが考えられた。また、OAの有する炎症の調節(抗炎症)および障害組織の再生・修復促進作用が、慢性炎症と繰り返す組織障害とその再生・修復を背景に発生する肝発癌および肝癌の発育・進展の微小環境に深く関与していることが推測された。
3: やや遅れている
オステオアクチビン陽性マクロファージのほとんどがCD68陽性であること、また高い貧食能を有していることを見出したが、オステオアクチビン欠損マウスにおいて肝障害の程度に差がなく、オステオアクチビン陽性マクロファージの肝障害における役割を明らかにすることに時間を要した。そのために研究の進捗が当初計画よりもやや遅れていたが、今年度内に肝障害で誘導される肝細胞(肝実質)の再生に引き続いて誘導される肝非実質細胞の再生に重要な役割を果たしていることを見出すところに到達できた。さらに、オステオアクチビンが発現する時期に肝癌細胞を接種すると肝癌細胞の生着が促進されることも見出した。
今年度に明らかにした障害肝の修復過程におけるOA発現マクロファージの肝非実質細胞における役割については、今年度内に論文化する。また、オステオアクチビン陽性マクロファージの肝発癌および肝癌の進展過程における役割を、今年度に確立した障害肝への肝癌接種モデルを用いて明らかにして、論文化を目指す。
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