C型慢性肝炎・肝硬変症例に対してIFN治療を行い、治療の前後(投与前とIFN終了後3年)で肝生検組織を採取している。これらの患者には、遺伝子検索の同意と電顕観察の同意を得た。IFN治療によってSVR(ウイルスの完全消失)が得られた症例では、肝機能の正常化が得られ、通常の光学顕微鏡下の観察では炎症所見を認めないことが多い。しかし、今回の電顕での検討において、ミトコンドリアや粗面小胞体の異常が残存していた。この事実は、SVR例からも肝発がんが認められる臨床報告の裏づけとなる。さらに、これらの障害は、脂肪肝の合併や飲酒によって増悪しており、C型慢性肝炎・肝硬変症例ではたとえSVRに至っても食事運動療法と断酒の継続が必要と思われた。電顕所見の評価について、数値化を試みているが、正確な定量化は現時点では困難である。このため、ミトコンドリアの形態異常とミトコンドリアDNAの塩基変異数との関係を検討し、一定の相関性を見出した。IFN投与によって、ミトコンドリアDNAの変異数は全例で減少し、投与期間が長期の症例では改善率が高かった。IFN終了後、HCVが再陽性化し、ALT値が増悪した症例では、ミトコンドリアDNAの変異数が再び増加した。このため、ミトコンドリアDNAの変異数は、肝組織の障害度によって変化するものであり、発がんリスクのマーカーになる可能性が示唆された。肝組織の網羅的遺伝子検索を試みたが、現時点では発がんリスクと関連するマーカー遺伝子は見つかっておらず、臨床的にAFP高値、高齢、脂肪肝や糖尿病合併、飲酒例に発がんが多く認められた。このため、ミトコンドリアDNAの遺伝子変異は今後、検討するに足る有望な臨床指標と考えている。
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