研究概要 |
癌細胞選択的に増殖し癌を融解するE1変異アデノウイルスは,頭頚部癌に対する欧米の臨床試験での画期的有効性が注目され,中国では世界初の遺伝子治療薬として承認された。これまで我々は,E1変異ウイルスのヒト胆道癌担癌ヌードマウスに対する実験的有効性を明らかにしてきたが,マウスはアデノウイルスの感染宿主ではないため安全性の評価は不十分であった。そこで本研究では,胆道癌に対するE1変異ウイルスを用いた遺伝子化学療法の臨床応用を視野に入れ,アデノウイルスの感染宿主であるシリアンハムスターの胆嚢癌KIGB-5細胞の同種担癌モデルを用いて,抗癌剤5-FUの効果を増強するUPRT遺伝子を搭載した癌選択的増殖型E1変異アデノウイルスの有効性(特に,抗腫瘍免疫)と安全性を検討することを目的とした。そのために,UPRT搭載E1変異ウイルスの,1)KIGB-5細胞に対するin vitroでの5-FU感受性増強効果,2)担癌ハムスターに対する腫瘍内および腹腔内投与後の各種臓器への分布と組織障害度,抗腫瘍免疫の評価を行い,5-FUを併用した遺伝子化学療法の有効性と安全性を評価する。研究初年度である平成22年度は,「UPRT搭載E1変異ウイルスの作製・調整およびKIGB-5細胞におけるアデノウイルス受容体(CAR)の発現および感染効率の検討」を行った。その結果,1)ハムスターの胆嚢癌KIGB-5細胞は,CARを良好に発現し,アデノウイルス感染効率も良好であること,2)UPRT搭載E1変異ウイルスは,KIGB-5細胞内で良好に増殖し,その5-FU感受性を著明に増強すること,が明らかとなった。次年度以後,KIGB-5細胞担癌ハムスターにおいて,本ウイルスのin vivoでの有効性と安全性を検討していく予定である。
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