研究課題/領域番号 |
22590767
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菊谷 昌浩 東北大学, 大学院・薬学研究科, 講師 (80361111)
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キーワード | 動脈硬化 / ABPM / 心血管病 / AASI / HASI / 血圧測定 |
研究概要 |
Ambulatory arterial stiffness index(AASI)は脈波伝播速度(PWV)、中心動脈、およびAugmentation indexと強く関連しており、また脳卒中死亡の予後予測能を有していることが明らかにされている。先行研究ではAASIの導出に、24時間自由行動下血圧を用いているが、原理上からは、家庭血圧でも同様に導出が可能なはずである。我々はそれをHome Arterial Stiffness Index(HASI)と定義し、その意義について、予後予測能の点から検証した。 脳卒中の既往のない35才以上の一般住民2377人(平均年齢59才、男女比4:6)の初発脳卒中発症状況を平均13年、最長19年追跡した。約1ヶ月間の朝の家庭血圧からHASIを算出した。予後との関連を家庭血圧による平均血圧、性別、年齢、BMI、喫煙、飲酒、糖尿病、高脂血症、心疾患既往および降圧療法を補正したCox比例ハザードモデルで検討した。その後、上記の補正に加えて家庭脈圧も補正した分析を行った。 観察期間中に脳梗塞発症191例、出血性脳卒中発症75例が認められた。平均血圧および各種危険因子で補正したとき、HASIの1SD上昇毎の脳梗塞発症ハザード比は1.20(P=0.020)であった。補正項目に家庭脈圧を加えて同様に分析を行ってもハザード比は1.18(P=0.078)であり同様の傾向であった。 消耗性疾患を除外する目的で初期2年のイベントを打ち切りとしても同様のハザード比であった(HASI 1.24,P=0.010)。一方、出血性脳卒中発症に関しては、HASIは有意な関連を示さなかった。 家庭血圧によって導出されたHASIは脳梗塞発症を予測した。これまで、AASIは24時間自由行動下血圧によって算出されてきたが、個体の血圧値が多数得られる家庭血圧によって測定したHASIも予後予測能を持つことが示唆された。家庭血圧は24時間自由行動下血圧と異なり対象者の負担がより小さい。更に家庭血圧計は一般家庭に広範に普及しており、本研究から得られた家庭血圧に関する新知見、すなわちHASIの持つ、血圧レベルとは独立した脳梗塞予測能は、一般外来においても考慮すべき重要な臨床情報であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4つの研究目的のうち、現時点で2つが達成されている。すなわち、「AASIの再現性評価」、および「4.家庭血圧によるAASI」が達成された。
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今後の研究の推進方策 |
残った研究目的のうち、「AASIの算出法の標準化」に関しては、既に国際的に標準化が完了している状況であり、現時点では、意義を失っている。もう一つの研究目的である「AASIの規定因子」に関しても、既に報告があり、意義が低下している。一方、近年、家庭血圧による類似の動脈硬化指標であるHASIが予後予測能を持っていることが明らかになり、研究の重要性はAASIよりもHASIの意義、性質を明らかにすることに重点が置かれつつある。したがって、今後はHASIの標的臓器障害との関連、その規定因子を明らかにしていくことが急務であり、取り組んでいきたい。
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