本研究の目的は、新しい心臓診断法である心磁図を用い、潜在する虚血性心疾患の非侵襲的早期診断法を開発することであった。平成24年度までに、以下の3点について検討を行った。 1)正常対照例(100例)の安静時心磁図所見を明らかにする。2)虚血性心疾患患者(100例)の安静時心磁図異常所見を明らかにする。3)上記2)の対象に、さらに運動負荷心磁図検査を行い、心筋虚血を誘発した際の心磁図異常を明らかにする。 その結果、1)正常例の心磁図所見が明らかとなった。すなわち、心房および心室の脱分極所見、再分極所見である。特に心房の再分極所見は心電図では観察することが出来ないため、新た知見である。さらに、異常な脱分極所見、例えば、右脚ブロック、左脚ブロック、左脚前枝ブロック、左脚後枝ブロックについても明らかにすることが出来た。また、健常例においては、ST部分においては全く電流は検出されないか左下に向かう微弱な電流が検出されるのみであることが明らかとなった。2)虚血性心疾患例においては、ST部分に於いて、正常例とは明らかに異なる方向の異常電流が、安静時心磁図に於いて既に存在することが明らかとなった。さらにこの電流は、理論的に虚血部の心内膜方向に向かうとされる傷害電流と方向がほとんどの例で一致することが確認できた。3)上述の虚血性心疾患例に特徴的な心磁図所見は、運動負荷を加えるとその所見が増強することが示され、所見が、心筋虚血を示すものであることが明らかとなった。さらに、上述の異常電流を解析するため、新たに64チャンネル上の全ての電流とその強度、方向の時間経過を一望できるmulti-current diagramを開発し、これにより、虚血性心疾患例の安静時電流異常を感度よく検出できることが明らかとなった。これに加え、上述の異常電流を心磁図の3方向からの記録により立体的に捉えることにも成功した。
|