われわれは、ラットへのアンジオテンシンIIの投与が、心臓・腎尿細管への中性脂肪の集積を惹起すること、同部位にスーパーオキサイドの過剰産生を認めることを報告した。今回、臓器への脂質集積の生理的な意義について検討した。 アンジオテンシンIIをラットへ持続投与し、PPAR-γアゴニストとしてピオグリタゾン(2.5 mg/kg/d)の経口投与行った。ピオグリタゾン投与は、中性脂肪値をコントロールと同レベルに低下し、アンジオテンシンIIによるタンパク尿の増加を抑制した。アンジオテンシンIIは心・腎において組織中性脂肪含量の増加、オイルレッドO染色による脂質滴の集積、および同部位におけるスーパーオキサイドの過剰産生などを惹起した。ピオグリタゾンの共投与は、アンジオテンシンIIより惹起される、これらの現象を抑制した。一方、ピオグリタゾンはアンジオテンシンIIによる、FAS・SREBP-1などの脂質合成系の遺伝子の発現増加には影響を与えなかった。以上から、ピオグリタゾンによる心・腎への脂質集積の抑制は、血中の脂質プロファイルの改善による者の可能性が高いと推察された。 体外灌流による心機能アセスメントではアンジオテンシンII投与は非ストレス状態では収縮能、拡張能、および、左室圧には有意な影響を与えないことが明らかになった。しかし、30分間の灌流中断とそれに続く再灌流による低酸素ストレスを与えた状態では、アンジオテンシンIIは各指標を低下させた。ピオグリタゾン共投与は、これらのパラメータを改善した。形態的な検討ではピオグリタゾンの共投与はアンジオテンシンIIにより生じた心室の線維化領域の縮小に働いていた。 以上から、PPAR-γアゴニストの投与はアンジオテンシンIIにより誘導される心・腎における脂質集積の抑制にはたらき、これらの臓器の形態的・機能的障害を緩和することが示された。
|