研究概要 |
心室頻拍・細動(VT/VF)が繰り返し発生し植込型除細動器が頻回作動するelectrical storm (ES)は,心機能低下や新たな不整脈惹起の原因となり,生命予後に重大な影響を及ぼしている.しかし,その分子機序は明らかでない.本研究では,独自に作成したESの家兎モデルを用いて,そのカルシウム制御異常,特に制御蛋白のリン酸化状態の変化を検討した.1.ESを呈した家兎では,心機能が低下し,心室筋組織の自己リン酸化カルモジュリンキナーゼII (CaMKII-P)発現が著しく亢進し,L型カルシウムチャネルや筋小胞体カルシウム放出チャネル・リアノジン受容体が過リン酸化される一方で,筋小胞体カルシウムポンプの調節機能蛋白ホスホランバン(PLB)は脱リン酸化されること,2.VFと除細動が繰り返されたコントロール家兎の心室筋組織でも同様な変化を示すこと,3.カルモジュリン拮抗薬W-7の持続投与により,VT/VFエピソード数が用量依存性に減少,心機能低下が回復,心室筋組織のCaMKII-P発現が減弱すること,を観察した.これらの所見より,ESの発生そのものがCaMKII-Pの増加や蛋白のリン酸化異常を引き起こすことによって,心機能障害を悪化させることが推測され,これが予後不良をもたらすメカニズムであると考えられた.カルシウム/カルモジュリン/CaMKII系シグナルを標的とした治療戦略がESを呈する患者管理に有効であると示唆された.本研究はESの分子機盤に関する知見をはじめて提供したものであり,国際一流誌に掲載された.
|