研究概要 |
心室頻拍・細動(VT/VF)といった致死的不整脈が繰り返し発生し、植込型除細動器(ICD)が頻回・連続作動する状態を電気的ストーム(Electrical Storm: 以下ES)と呼ぶ。ESは緊急の処置を要する重篤な状態であるばかりでなく、心機能低下や新たな不整脈惹起の原因となり生命予後にも重大な影響を及ぼしている。しかし、その病態・機序は明らかでない。我々は、ESを再現した実験モデル動物の作成に成功し、その病態を心筋細胞内カルシウム動態異常の観点から解析した。ESの発生により、リン酸化酵素カルモジュリンキナーゼ(CaMKII)活性が著しく亢進しカルシウム制御蛋白のリン酸化異常を引き起こす結果、心収縮・拡張障害やさらなる不整脈の発生が促進されることをつきとめた。 電位依存性Na+チャネル電流(INa)は心筋の興奮伝播速度を決定する重要な脱分極電流である。チャネルは開口後迅速に不活性化されその電流値はゼロに近づくが、持続する成分、遅延Na+電流(INa-L)が存在する。INa-Lは催不整脈電流で、その増加により活動電位持続時間が延長し早期後脱分極が惹起されやすくなる。Na+チャネル遺伝子変異によって引き起こされる先天性QT延長症候群3型だけでなく,心肥大や心不全といった後天的な病態心でもINa-Lが増加することが知られている。近年、CaMKIIによってNa+チャネルが過リン酸化されるとINa-Lが増加することが報告された。これらの所見より、CaMKII活性が亢進するESの病態にもINa-Lが深く関与し、INa-Lを標的とした治療戦略が有益な効果をもたらすかもしれないと考えられる。この仮説を検証するためINa-L遮断薬の抗不整脈効果を検討した。INa-L遮断薬がこの動物モデルのVT/VFを抑制すること、単離心室筋細胞で出現した早期・後期後脱分極を抑制することを観察した。以上の実験結果より、INa-L遮断が新たな治療戦略と成り得ることが示唆され、ESの病態に果たすINa-Lの役割を明らかにしていく必要がある。
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