研究課題/領域番号 |
22590783
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
川合 宏哉 神戸大学, 医学研究科, 特命教授 (20346266)
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研究分担者 |
杜 隆嗣 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (50379418)
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キーワード | 脂質代謝 / 高比重リポ蛋白 / 循環器 / 心肥大 / 心不全 / 心筋 / 脂肪酸 |
研究概要 |
高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)は、コレステロール逆転送作用以外に、多彩な抗炎症・抗酸化作用、内皮機能改善作用などを有し、動脈硬化の負の危険因子として知られている。我々は、このようなHDLの多面的作用は、心筋細胞に対しても保護的に作用するという仮説を立てた。血管内皮リパーゼ(Endothelial lipase ; EL)は血清HDL値の主要な規定因子である。本研究ではEL遺伝子改変マウスを用いて、高あるいは低HDL血症を合併する心不全モデル作成し、HDLが心不全の発症・進展に保護的に作用するか検討する。これまでの細胞実験結果より、HDLは心筋細胞に対しても抗炎症・抗酸化・抗アポトーシスなどの保護効果を有することを明らかにしてきた。 本年度は、EL欠損マウスと野生型マウスの上行大動脈を結紮し、圧負荷肥大心モデルである大動脈縮窄マウスを作成した。4週間後に、EL発現を検討したところ、肥大心ではELの発現が亢進していた。一方、心筋への脂肪酸供給に重要な役割を果たしているリポ蛋白リパーゼ発現は減少していた。心エコー図を用いて心機能を評価したところ、EL欠損マウスでは高HDL血症を呈するにもかかわらず心肥大はむしろ増悪した。また、野生型マウスにアデノウイルスを用いてELを肝臓に過剰発現したところ、著明な低HDL血症を認めたが、心肥大や心不全には影響はなかった。心肥大初期には心臓内の炎症を伴うが、SLは炎症によって発現が増加し、心筋細胞への脂肪酸由来エネルギーを供給していることが示唆された。この作用は、EL発現変化によってもたらされるHDLによる心筋細胞保護作用を凌駕した。したがって、心筋細胞に発現するELは、心筋細胞へのエネルギー供給に関与しており圧負荷への適応に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
細胞実験では、HDLは心筋細胞に対しても抗炎症・抗酸化・抗アポトーシスなどの保護効果を有し、高HDL血症は心不全の進行を予防すると想像していたのに対して、EL欠損マウスは高HDL血症を呈するにもかかわらず心不全が増悪したために、その機序の解明に予想以上に時間がかかった。
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今後の研究の推進方策 |
心筋細胞に発現するELは、心筋細胞へのエネルギー供給を担い、圧負荷への適応に重要な役割を果たしていることが判明したことから、今後は心不全を有するEL欠損マウスと野生型マウスで、心筋細胞のエネルギー(脂肪酸)代謝を検討する予定である。また、培養細胞を用いてELの心筋細胞のエネルギー(脂肪酸)代謝における役割を検討し、その分子機序を明らかにする。全体として、研究は期間内に終了する見込みである。
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