研究概要 |
平成22年度は、本研究症例登録のためのファイルをファイルメーカーProを用いて作成し、症例登録を容易にした。また本研究への参加施設を16施設まで増やし、参加各施設の倫理委員会を通過した。平成22年度は1,000症例弱が登録されたが、解析を行うには少ないため各施設において引き続き症例の登録を行う旨通達した。 本研究の今後の遂行をスムーズにするために、本研究の前身である、日本における急性心筋梗塞の実状を把握したJACSS (The Japanese Acute Coronary Syndrome Study)についてまとめを行った。5,325例の心筋梗塞症例が登録され、これまで15編の英文論文が発表された。JACSSは現在の冠動脈インターベンション時代の研究であるため、日本の心筋梗塞の現状を把握するのに重要な研究に位置づけられた。冠動脈インターベンションが出現し、一昔前の心筋梗塞の治療とは完全に異なっており、予後も明らかに改善した。そのため以前の心筋梗塞に関するデータは現在では通用しないことが判明してきた。日本人における心筋梗塞の危険因子は、高血圧、糖尿病、喫煙、脂質異常症であり、その重要度には差がある(男性:高血圧、喫煙、糖尿病の順、女性:喫煙、糖尿病、高血圧の順)ことが認められた。また女性は男性に比べ心筋梗塞の発症が約10年遅く罹患率は低いものの、閉経後に危険因子は増加し急激に罹患率が増加することが明らかとなった。さらに女性は心筋梗塞発症から受診までの時間が長く、急性期治療が十分に施されておらず、男性に比べ予後が不良であった。一方、心筋梗塞急性期に高血糖であると予後は不良であり、血糖管理の重要性が示唆された。尿酸値も高値であると予後不良になることがわかったが、尿酸値を低下させると予後に影響するのか今後の課題となった。入院時の白血球数は冠動脈プラーク形態と関連しており、高値であるとインターベンション中のno-reflow現象が出現しやすいことが認められた。週末に心筋梗塞が発症した場合、欧米では十分な医療が受けられず平日発症に比べ予後が不良になることが示されているが、日本では平日と同様に予後は変わりなく、均一な質の医療が提供されていることが考えられた。心筋梗塞の治療として冠動脈インターベンションが主流になる以前の時代では硝酸薬を用いると予後を悪化させるデータが示されたが、冠動脈インターベンションが盛んである現代において硝酸薬は予後を悪化させることはなく、病態に応じて使用すべきであると思われた。以上、JACSSから得られた知見を一冊の本「日本における急性心筋梗塞の現状~JACSSデータから得られたもの~」にまとめ出版した(平成22年7月第1刷発行編集・発行:小島淳・小川久雄印刷・製本:ホープ印刷株式会社)。
|