研究概要 |
【研究の目的】失神は一般人口集団において約30%が生涯に一度は経験する比較的頻度の多い症状であり、救急外来受診患者においては約3%、入院患者では6%を占めるとされている。この内で多くを占める原因は器質的心疾患を伴わない神経調節性失神(Neurally Mediated Syncope,NMS) である。我々は失神発作時に血漿アドレナリン値が著名に上昇する現象に注目した。本研究ではNMS患者におけるアドレナリンの役割を神経薬理学的見地とアドレナリン受容体の遺伝子多型性の評価による検討を行った。 【研究実績】個人間における頭位挙上時の血行動態反応の違いと各種自律神経機能の指標および末梢血管収縮と関連の深いα2アドレナリン受容体遺伝子(ADRA2B)の多型性解析を中心に検討するために、自律神経機能検査(AFT)及び頭位挙上(HUT)試験と遺伝子解析の結果を患者群(8名)と健常群(10名)間で比較した。AFTによる両群間での心臓自律神経機能に有意差は認めなかったが、ベースラインにおける血漿ノルアドレナリン値は患者群において有意に高値であった。HUT試験における前値及び検査終了時の血漿レニン、アルドステロンは両群間で有意差は認めなかった。 ADRA2Bにおいてグルタミン酸(Glu)リピート数の違いによる3つの多型(Glu12/12 3名、 Glu12/9 12名、Glu9/9 2名)が認められた。NMS群とHUT有症者における多型はGlu12/12もしくはGlu12/9であり、Glu9/9は認められず、ADRA2BにおけるGluリピート数と立位負荷時の循環動態との関連が示唆された。 今後引き続きサンプル数の増加および他のアドレナリン遺伝子においての多型解析を行い、遺伝子多型と臨床データとの関連性を調査し、統合的な病態生理の理解に基づいたNMSのマネジメントを発信する予定である。
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