これまでの研究で、迷走神経刺激による急性心筋梗塞ラットでの著明な抗不整脈効果や、慢性心不全ラットでの顕著な心臓リモデリングの抑制作用及び長期生存率の改善作用を報告した。迷走神経刺激による治療機序として、心負荷の軽減以外に、抗アポトーシス効果、ギャップ結合のリモデリング抑制作用および免疫・炎症反応の調節による心血管新生も関与している可能性が推測されている。本研究では、心筋梗塞・心不全の新しい治療法-副交感神経系の賦活化による心血管再生療法の可能性を確立するために、急性心筋梗塞後の心不全ラットにおいて迷走神経刺激による心臓内在性心筋幹/前躯細胞の増殖・分化誘導に及ぼす影響を検討する。また、急性心筋梗塞後の心不全ラットに対する迷走神経刺激による抗炎症・抗アポトーシス効果、心臓リモデリング・心機能等におよぼす影響を詳細に検討することによって、迷走神経刺激による心血管再生と治療効果との関係を明確に評価する。 本年度の研究では、8週齢のSDラットを麻酔下に、左冠状動脈を結紮して急性心筋梗塞作成した。1時間生存した心筋梗塞ラットに4週間の迷走神経刺激治療を行った。急性心筋梗塞後早期からの迷走神経刺激治療は、致死性不整脈を抑制し、24時間の生存率を有意に改善した。そして、心筋繊維化の抑制、心筋梗塞面積の拡大の抑制により、著明な心臓リモデリング抑制効果を示し、血中BNPおよびノルエピネフリン濃度を低下させた。心臓リモデリング抑制の機序として、迷走神経刺激によって心臓内在性心筋幹/前駆細胞の増殖・分化及び血管新生が促進されることを確認した。また、迷走神経刺激は著明な抗炎症・抗アポトーシス効果を示した。しかしながら、迷走神経刺激による心血管再生の機序については明らかになっていない。今後この機序を解明することは、臨床急性心筋梗塞・心不全において迷走神経刺激による新しい心血管再生治療法の確立と展開に大きく貢献すると考える。
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