研究概要 |
本年度は、遺伝子解析にて遺伝子変異を認めた心筋症家系について、詳細に臨床病態を分析した(Int Heart J.51:214-217,2010)。その結果、たとえ同じ遺伝子変異により心筋症を発症した症例においても、長期的な臨床病態が異なることが判明した。具体的には、心筋トロポニンI遺伝子のLys183del変異を有する肥大型心筋症2例の長期経過と病理所見を比較した。一方の74歳女性は、長期経過において次第に左室収縮機能が低下し、74歳の死亡時の病理所見では、心室中隔の菲薄化および心室中隔を中心としたびまん性かつ貫壁性の心筋線維化が認められた。他方の92歳の男性は心筋梗塞を発症するまでは左室収縮機能を保ち、病理解剖時にも非対称性中隔肥厚を示し、典型的な肥大型心筋症の病態を呈していた。このような同一遺伝子変異保因者における臨床病態の差異を生ずる原因として、レニンアンジオテンシン系の多型が関与する可能性を考え、その解析に取り組んだ(Circ J.74:2674-2680,2010)。具体的には、サルコメア遺伝子変異により肥大型心筋症を発症した遺伝子変異保因者(49家系中の126名、男性64名、平均年齢51歳)において、網羅的にレニンアンジオテンシン系の多型を解析した。その結果、レニンアンジオテンシン系多型のうち、ACE多型のD alleleおよびAT1受容体多型-1166のC alleleを有する遺伝子変異保因者において、左室の拡大や左室の収縮機能低下が認められやすいことが判明した。以上の結果より、サルコメア遺伝子およびレニンアンジオテンシン系多型を網羅的に解析することにより、左室収縮機能低下を示しやすい保因者を早期に発見・治療すること、すなわちテーラーメード治療を行うことが可能となり、心筋症患者の予後改善に寄与できる可能性を示した。
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