vasohibin-1は血管新生刺激に反応して血管内皮細胞が自ら産生・分泌し、さらに自らに作用して血管新生を抑制する極めてユニークな分泌タンパクである。申請者はこれまでにvasohibin-1が内皮細胞において血管新生抑制作用の他に、SIRT1とsuperoxide dismutase-2(SOD2)を介して抗老化・抗細胞死作用を発揮し、内皮細胞の恒常性維持にも非常に重要な分子であることを見出してきた。vasohibin-1の内皮細胞の恒常性維持メカニズムについては(1)vasohibin-1がcell cycle dependent kiasel(CDK1)の発現とリン酸化を制御することによりCDK1の活性を制御し、そのCDK1がSIRT1をリン酸化する。(2)Vasohbin-1はTNF-αの発現を抑制し、SIRT1の下流分子であるFoxo3aの発現を促進させることによりSOD2の発現を制御する。(3)in vivoにおいてはvasohibin-1ヘテロマウスは正常マウスより、大量の活性酸素を発生するパラコートに対する抵抗性(生存率および肺の障害)が低いこと、さらにvasohibin-1ヘテロマウスにvasohibin-1アデノウイルスとコントロールアデノウイルスを投与するとvasohibin-1アデノウイルス群でパラコートに対して抵抗性が上昇することを明らかにした。現在、日本人の死因の上位を占める虚血性心疾患と脳血管疾患の主な原因は動脈硬化である。動脈硬化の主因に血管内皮細胞の老化と細胞死があり、それらを抑制することがこれらの疾患の防止につながると考えられる。この研究の目的であるvasohibin-1の動脈硬化抑制の可能性については(1)血管内皮細胞においてvasohibin-1の発現をsiRNAでノックダウンすると接着分子ICAM-1の発現が増加し単球の内皮細胞への接着が増加すること、逆にアデノウイルスベクターでvasohibin-1を高発現させると単球の内皮細胞への接着が減少することを明らかにした。in vivoにおいては現在、vasohibin-1(+/-)マウスとApoE(+/-)ノックアウトマウスを交配中であり、今後、vasohibin-1(-/-)/ApoE(-/-)マウスとvasohibin-1(+/+)/ApoE(-/-)マウスに高カロリー食を投与し大動脈のOil Red O染色等により動脈硬化の程度を比較解析する予定である。
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