VEGFなど単独の増殖因子を標的とした従来の血管新生誘導療法は、形成血管の機能・形態異常を伴い、臨床的虚血改善効果に乏しい。転写調節分子は「遺伝子発現の協調的制御」を促して有効な血管新生を誘導するポテンシャルを有している。転写因子コアクチベータPGC-1αは骨格筋において一連の増殖因子発現を介し正常な血管を効率的に誘導し、新規創薬標的として期待を集めている。しかしながら、PGC-1αの機能はエネルギー代謝調節を始め異なる細胞間で多岐にわたる。本研究は血管新生のメインプレーヤーである血管内皮細胞の遊走機能制御においてPGC-1αが果たす役割を明らかにし、血管新生の新規治療戦略の開発へと寄与することを目的とする。 平成22年度においては、PGC-1αの機能を抑制あるいは促進させた培養内皮細胞モデルの作成を試み、成功した。同モデルを使用して種々の細胞遊走・血管新生アッセイを施行し、血管内皮機能および運動能におけるPGC-1αの役割を検討した。さらに同モデルを用いて、PGC-1αの下流シグナル分子に関する探索を行い、候補となる分子を複数同定した。これら候補分子の個々について、PGC-1αによる内皮運動能制御における意義の検討を行った。本年度の成果を踏まえて、平成23年度にはさらに遺伝子工学的手法を駆使して、トランスジェニック・ノックアウトマウスの開発を行い、血管細胞におけるPGC-1αの役割に関して個体レベルで解析を行う予定であり、同分子を標的とする新規創薬への展開を目指していきたいと考えている。
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