研究概要 |
低分子量G蛋白質のRap1は、その活性制御蛋白質や標的蛋白質の細胞内局在に基づいて細胞内の局所で活性化されて作用することにより、細胞の接着、増殖、分化、極性形成、運動、神経細胞の軸索形成など多彩な機能を制御している。培養ヒト血管内皮細胞において,血管内皮増殖因子(VEGF)やスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)によりRap1は運動先導端において活性化され、活性化されたRap1はアクチン結合蛋白質のアファディンと結合して、細胞間接着、マトリゲル上での管腔形成、遊走、増殖、生存に重要な役割を果たしていた。Rap1-アファディン系はホスファチジルイノシトール3キナーゼ-Aktシグナル伝達経路の活性化を調節していた。血管内皮特異的アファディンノックアウトマウスを作製したところ、ほとんどのマウスが胎生致死となったが、胎生致死に至らなかったマウスでは、対照マウスに比べて生後の網膜血管網の発育は遅延し、VEGFやS1Pにより誘導される血管新生が抑制されていることをマトリゲルプラグアッセイにより確認した。大腿動脈結紮による下肢慢性虚血モデルにおいて、血管内皮特異的アファディンノックアウトマウスでは、対照マウスに比べて下肢血流の回復が遅延しており、血管新生が減弱していた。このようにRap1-アファディン系は、下流のホスファチジルイノシトール3キナーゼ-Aktの活性化を調節して様々な血管内皮細胞機能を制御しており、細胞レベルのみならず、個体レベルにおいても血管新生に重要な役割を果たしていることが明らかになった。さらに、接着分子のNecl-5がVEGFによる細胞内シグナルの活性化を制御しており、血管内皮細胞の管腔形成、遊走、増殖、生存に重要な役割を果たしていることを見出した。
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