研究課題/領域番号 |
22590830
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
市来 俊弘 九州大学, 大学院・医学研究院, 教授 (80311843)
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キーワード | 迷走神経 / 抗炎症 / サイトカイン / 酸化ストレス / 血管新生 / ドネペジル / コリンエステラーゼ阻害薬 / interleukin-1β |
研究概要 |
【背景と目的】迷走神経刺激により、慢性心不全ラットの長期生存率が改善し、リポポリサッカライド投与による敗血症モデルでの炎症反応が減弱すると報告されている。この経路はコリン作動性抗炎症経路として知られている。可逆的コリンエステラーゼ阻害薬であるドネペジルはアルツハイマー病患者の認知機能を改善するが、心血管病の形成に対してどのような影響を与えるかについては明らかにされていない。本研究では、ドネペジルによる薬理学的な迷走神経刺激が血管新生に与える影響を検討した。 【結果】8週令のC57BL/6マウスの一側の大腿動脈を結紮し、急性虚血から徐々に血流が回復するモデルを作成した。ドネペジルおよびフィゾスチグミン(同じくコリンエステラーゼ阻害薬)の投与はレーザードップラー法により評価した虚血下肢の血流回復を抑制した。内皮細胞の免疫染色により検討した2週間後の虚血下肢の筋肉内毛細血管密度も低下していた。ドネペジルを投与されたマウスの虚血下肢ではvascular endothehal growth factor(VEGF)とinterleukin(IL)-1ssの発現が低下していた。下肢虚血モデルにドネペジルを投与すると同時にIL-1ssを筋肉内注射すると,ドネペジルによる血流の低下、虚血下肢の筋肉内毛細血管密度の低下、VEGFの発現低下が改善した。 【結論と意義】本研究により、ドネペジルによる薬理学的な迷走神経刺激はIL-1ssの発現抑制により血管新生を抑制することが明らかとなった。フィゾスチグミンでも同様の結果が得られたので、この作用はアセチルコリンの分解抑制に基づくものと考えられる。血管新生は心血管病の進展において二面的な影響がある。動脈効果により閉塞あるいは狭窄した血管の末梢への血流を維持するために側副血行路の形成は重要である。一方で、粥状動脈硬化病変における血管新生はプラークの不安定化に寄与すると考えられている。ドネペジルの血管新生抑制効果が動脈硬化症を有する患者のイベントにどのような影響を与えるかについては臨床的な研究が必要であるが、抗炎症作用などを考えると有用である可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コリンエステラーゼ阻害薬が動脈効果へ及ぼす影響についての研究を平成22年度に報告した。そして血管新生に及ぼす影響についての研究を平成23年度にまとめる事ができたため,研究は概ね順調に進展していると考えている。血管新生に及ぼす影響に関しての論文は現在in pressである。
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今後の研究の推進方策 |
薬理学的な迷走神経がどのような機序によって抗動脈硬化、抗血管新生効果を引き起こすかの分子機序に迫る研究を行う必要がある。アセチルコリン受容体の選択的な刺激薬や拮抗薬などを用いることによってどの受容体が関与するかを解析する。また、アセチルコリンがinterleukin-1βの発現を抑制する機序について,受容体の関与や細胞内シグナル伝達などに関して培養細胞を用いて研究を行う。
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