【背景と目的】迷走神経刺激により、慢性心不全ラットの長期生存率が改善し、リポポリサッカライド投与による敗血症モデルでの炎症反応が減弱すると報告されている。この経路はコリン作動性抗炎症経路として知られている。コリンエステラーゼ阻害薬であるドネペジルはアルツハイマー病患者の認知機能を改善するが、心血管病の形成に対する作用についての検討はない。本研究では、ドネペジルが血管新生に与える影響を検討した。 【結果】8週令のC57BL/6マウスの一側の大腿動脈を結紮し、急性虚血から徐々に血流が回復するモデルを作成した。ドネペジルの投与はレーザードップラー法により評価した虚血下肢の血流回復を抑制した。同時にIL-1βを筋肉内注射すると,ドネペジルによる血流の低下が改善した。筋芽細胞を用いた検討では、低酸素によりIL-1βの発現が誘導され、アセチルコリンで誘導が抑制された。低酸素はAktを活性化し、やはりアセチルコリンで抑制された。マウスの虚血肢ではAktが活性化されていたが、ドネペジルの投与により活性化が抑制された。 【結論と意義】本研究により、ドネペジルによる薬理学的な迷走神経刺激はIL-1βの発現抑制により血管新生を抑制することが明らかとなった。動物実験および培養細胞を用いた検討から、ドネペジルによりアセチルコリンが増加し、アセチルコリンがAktのリン酸化を抑制するために血管新生が抑制される事が示唆された。粥状動脈硬化病変における血管新生はプラークの不安定化に寄与すると考えられている。ドネペジルの血管新生抑制効果が動脈硬化症を有する患者のイベントにどのような影響を与えるかについては臨床的な研究が必要であるが、コリンエステラーゼ阻害薬が新たな動脈硬化治療薬となる可能性が示唆された。
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