昨年度は、粘液産生能を有するNCI-H292細胞にM3受容体が存在し、カルバコール刺激による粘液産生亢進がムスカリン受容体阻害薬のチオトロピウムにより抑制されること、またエラスターゼ刺激による粘液産生亢進もチオトロピウムやイプラトロピウムにより抑制されることを明らかにした。 本年度はin vitroの系を用いて、COPDの治療薬として期待されているフォスフォジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬のエラスターゼ刺激による粘液産生への影響について検討した。PDE4阻害薬としては現在臨床使用が可能なイブジラストを用いた。方法はNCI-H292細胞をイブジラスト存在下にエラスターゼで刺激し、その細胞溶解液中のMUC5AC濃度をELISAで測定した。その結果、イブジラストはエラスターゼ刺激によるMUC5AC産生亢進を有意に抑制した。またイブジラストはエラスターゼ刺激後の細胞内cAMP濃度を有意に増加させた。同様に細胞外から投与した8-Br-cAMPもエラスターゼ刺激後のMUC5AC 産生亢進を有意に抑制した。以上のことから、イブジラストは細胞内cAMPの増加を介してエラスターゼ刺激後の粘液産生を抑制することが示された。 次に粘液分泌反応に対するエラスターゼ阻害薬の効果もin vitroで検討した。気道上皮細胞の初代培養で成熟した粘液顆粒を有する杯細胞化生培養系を作成した。エラスターゼ刺激により杯細胞の粘液顆粒は脱顆粒することを電顕で証明した。さらにエラスターゼ阻害薬はこの反応を抑制した。 COPDにおける過分泌はその予後に影響を与えることが報告されている。本研究を通して、ムスカリン受容体阻害薬、PDE4阻害薬、エラスターゼ阻害薬などがCOPDの過分泌治療薬としての作用が期待できることが示された。
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