肺気腫は、慢性炎症による肺胞構造の破壊を特徴とする難治性の閉塞性換気障害である。本研究では、病的刺激(喫煙や機械的刺激)によって炎症が惹起され肺気腫が発症し進展する分子機序を解明する。特に、分子センサーASC/Caspase-1複合体が病的刺激と肺気腫病態とを繋ぐ鍵分子であることを証明し、ASC/Caspase-1を標的とした新たな肺気腫治療法を開発することを目標とする。そのために本年度実施した実験計画は、以下の2点であった。 【計画1:ヒト肺気腫組織の解析】 肺切除術を実施した20症例において、同意を得て手術中に採取されたヒト肺組織を標本とした。標本は、ASC/Caspase-1の下流で働くと思われる各種炎症蛋白のウエスタンブロット解析用に凍結保存し、一部は組織標本とした。術前CTならびに病理組織所見により肺気腫群(12症例)と非肺気腫群(8症例)に分類し比較すると、肺気腫群の組織中で各種炎症促進分子が増加する傾向がみられた。 【計画2:マウス肺気腫モデルにおける予防実験】 野生型マウスの気管内にエラスターゼを投与し、肺気腫モデルを作成した。エラスターゼ処理後パルスオキシメーターで肺機能を評価しつつ、2週後、4週後、8週後の経時的にマウスを犠牲死させマウス肺標本を解析した結果、エラスターゼ投与後4週目に肺気腫病変が確立することが分かった。その後、ASC遺伝子欠損マウスと野生型マウスに、各々エラスターゼ処理を行い、4週目に犠牲死させ肺組織を標本として採取した。次年度に、採取標本を病理学的および生化学的に解析予定である。
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