研究概要 |
肺気腫は、慢性炎症による肺胞構造の破壊を特徴とする難治性の閉塞性換気障害である。その分子病態機序は未だ十分に解明されておらず、有効な治療法(特に薬物療法)はない。本研究では、肺組織への病的刺激(喫煙や機械的刺激)によって炎症が惹起され肺気腫が発症し進展する分子機序の一端を解明する。特に、分子センサーASC/Caspase-1複合体が病的刺激と肺気腫病態とを繋ぐ鍵分子であることを証明し、ASC/Caspase-1を標的とした新たな肺気腫治療法を開発することを目標とする。そのために本年度実施した実験計画は、以下の2点であった。 【計画1:ヒト肺気腫組織の解析】 平成22年度までに採取されたヒト肺気腫組織標本の解析を実施した。標本は、肺切除術を実施した20症例において、同意を得て手術中に採取されたヒト肺組織であった。術前CTならびに病理組織所見により,肺気腫群(12症例)と非肺気腫群(8症例)に分類された。ASC/Caspase-1の下流で働くと予想される炎症性シグナル分子JNK活性とマトリクス分解酵素MMPをウエスタンブロットならびにザイモグラフィーで定量的に解析した。その結果、肺気腫群では非肺気腫群に比べMMP-9が増加している傾向が見られたが、現在までのところ統計学的な有意差は検出されていない。 【計画2:マウス肺気腫モデルにおける予防実験】 平成22年度までに確立したマウス肺気腫モデル作成法に基づいて、ASC遺伝子欠損マウス(n=8)ならびに野生型マウス(n=8)の気管内にエラスターゼを投与し、エラスターゼ処理後4週目に、各マウスを犠牲死させマウス肺標本を摘出した。摘出肺組織をHE染色ならびにEVG染色により組織学的に検討したところ、野生型マウスでは肺胞構造の破壊がびまん性に確認され、炎症細胞浸潤を伴っていた。このような肺気腫変化がASC遺伝子欠損マウスで抑制されることが期待されたが、実際には野生型マウスにおける組織破壊像とほぼ同等の変化が観察された。
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