【背景】高地肺水腫(HAPE)は、健常者が急速に高地に到達することにより発症する非心原性肺水腫である。その発症機序は十分に解明されておらず、遺伝的素因が関与する可能性も指摘されている。本研究ではHAPE既往者と非発症者において、マイクロサテライトマーカーを用いた網羅的遺伝子解析を行った。さらに、両群間で有意差を認めた遺伝子について、単塩基多型(SNPs)の解析を行った。 【方法】HAPE既往者53名と、健常登山家67名を対象とした。静脈血から抽出したDNAを用いて、400個のマイクロサテライトマーカーによる遺伝子解析を行った。マイクロサテライトマーカーによる解析で有意差を認め、HAPEの発症に関与すると考えられた遺伝子群のうち、TIMP3(tissue inhibitor of metalloproteinase 3)遺伝子に注目し、SNPs解析を行った。 【結果】マイクロサテライト解析では、12個のマーカーに統計学的な有意差を認めた。このうち9マーカーは疾患感受性を、3つは疾患抵抗性を示した。また、TIMP3遺伝子の6個のSNPs解析では、1個のSNP(rs130293)に両群間で強い有意差を認めた(P < 0.0005)。 【考察】マイクロサテライト解析で複数のマーカーに有意差を認めたことから、HAPEの発症には種々の遺伝子が関与する可能性が示唆された。TIMP3遺伝子は肺の構造維持に関係すると報告されており、本遺伝子の変異がHAPE発症の危険因子になると考えられた。
|