研究課題/領域番号 |
22590856
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川部 勤 名古屋大学, 医学部, 教授 (20378219)
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研究分担者 |
松島 充代子 名古屋大学, 医学部, 助教 (10509665)
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キーワード | フラボノイド / heme oxygenase-1 / 急性肺損傷/急性呼吸促迫症候群(ALI/ARDS) |
研究概要 |
急性肺損傷/急性呼吸促迫症候群(ALI/ARDS)は肺内に過剰に集積した好中球による組織破壊が主たる病態であり、晩期には線維増殖も起こり、依然として薬物療法は確立していない。本研究の目的はHO-1の活性化能を指標として天然に存在する各種フラボノイドを用いたALI/ARDSに対する最初の薬物療法の開発を目指し、その基礎的検討を行うことである。 平成23年度ではケルセチンの組織・細胞保護作用について肺胞上皮細胞株を用いて検討した。実際のALI/ARDSの病態では肺胞内に浸出した好中球や活性化された肺胞マクロファージからの活性酸素種が傷害を及ぼす大きな要因であると考え、H_2O_2曝露による細胞の傷害に対するフラボノイドの抑制効果を検討した。具体的にはまずケルセチンが肺胞上皮細胞においてHO-1を誘導することを確認した。さらに、HO-1誘導に重要な転写因子nuclear factor-erythroid 2 related factor 2 (Nrf2)の関与についてケルセチンによるNrf2の核内移行を免疫染色法により確認した。また、ケルセチンはERKおよびJNKのリン酸化を亢進させることを明らかにした。ケルセチンはH_2O_2曝露により起こるアポトーシスを抑制し、これらの抑制はHO-1を介していることも明らかにした。以上の研究結果ついてはBiochem. Biophys. Res. Commun.の2012年1月号(417巻:169-74)に報告した。 また、実際にALI/ARDSについてin vivoの系でケルセチンの効果を確認するために、ALI/ARDSモデルマウスを作製し、肺のwet lung-to-body weight ratio、H&E染色による病理組織所見の炎症の重症度を確認し、モデルマウス作製の系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フラボノイドによるHO-1を介した生体での肺抑制効果を検討する上で、まず肺組織を細胞レベルで検討し、初年度は肺線維芽細胞を用いてフラボノイドの細胞保護作用、HO-1議導機序を検討し.Am J Respir Cell Mol Biol.に報告した。今年度はさらに病変の主座となる肺上皮細胞について精査し、Biochem.Biophys.Res.Commun.に報告した。これらの知見をもとにして、来年度は生体で検討でき、以上のことからおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度では実際にALI/ARDSについてin vivoの系でケルセチンの効果を確認する。具体的にはALI/ARDSモデルマウスを作製しケルセチン投与の有無により肺傷害の改善が見られるか検討する。評価項目は肺のwetlung-to-bodyweightratio、H&E染色による病理組織所見の炎症の重症度、気管支肺胞洗浄液中の細胞分画(特に好中球、マクロファージ)およびサイトカイン量、また肺機能についても測定し検討する。ケルセチンの投与方法も重要な検討課題であり、経口ならびに経気道的投与法を検討し実際にALI/ARDS症例に用いる際の具体的な方法を探索する。また可能なら吸収や生体内代謝に相違が生じる配塘体も用いて薬物治療候補となったフラボノイドによるALI/ARDSの肺傷害抑制効果を検討する。
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