本事業の初年度は進行肺癌患者における内因性グレリンを測定し、その意義を検討した。また、肺癌化学療法を施行する患者においてその副作用軽減目的にグレリンを補充する適切な時期、期間を検討するため、副作用発生に関する調査を行った。 化学療法を施行した進行肺癌患者と健常人ボランティアでAIA法により血漿アシルグレリン、デスアシルグレリンを測定した。肺癌症例の背景は男性17例、女性9例、非小細胞肺癌が24例、小細胞肺癌が2例、平均年齢は63歳、平均BMIは22.8であった。健常人では血漿総グレリンが41.4fmol/mlであったのに対して肺癌患者では90.7fmol/mlと有意に上昇していた(p=0.017)。また、肺癌の有無、性別、年齢、BMIを調整して多変量解析を行うと、肺癌の有無が血漿総グレリン上昇を予測する独立した因子であった。さらに、化学療法を施行して体重が減少した患者では治療前に比べて治療後で内因性グレリン産生が増えていた。 上記とは別に進行肺癌のため初回の化学療法を施行した患者33症例で抗癌剤による有害事象の有無と程度、期間を検討した。患者背景は男性25例、女性8例、平均年齢64歳、非小細胞肺癌21症例、小細胞肺癌12症例であった。1症例を除いた32症例ではプラチナ製剤が投与されていた。体重変化を検討できた28症例では27症例で体重が減少しており、平均1.7kgの減少であった。33症例中、60%以上の摂食量低下を来した症例は82%、食思不振を訴えた症例は55%、その他に筋肉痛、倦怠感、しびれ感、不眠などがあった。これらの有害事象は抗癌剤開始後2日目からの7日間に集中して生じていた。 これらの検討より進行肺癌患者、特に化学療法を施行して体重が減少した患者では内因性グレリン産生が増加しており、抗癌剤投与後に薬理的量のグレリン投与が有効であると考えられた。
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