昨年度までの検討で、障害をうけた腎臓では、DNAメチル化およびヒストン修飾変化が生じることが明らかになった。本年度は、認められたエピジェネティック異常の原因となる修飾因子について検討を加えた。最近、ストレス応答蛋白gadd45betaがDNAの脱メチル化反応を引き起こすことが報告されている。そこで腎臓障害でのgadd45betaの発現変化と機能について検討した。一側尿管結紮(UUO)および、虚血再還流モデルについて検討を行った。モデル作成には8週令雄性C57Bl6マウスを用いた。また、ヒト近位尿細管細胞を培養し、gadd45beta発現を変化させる因子を探索し、gadd45beta siRNAを用いて機能を検討した。障害腎でgadd45beta mRNA発現はUUOモデルで約4倍に、虚血再還流モデルで2.7倍に上昇した(p<0.01)。培養尿細管細胞を用いた検討で、TGF-betaがgadd45betaを誘導することが明らかになった。gadd45betaに対するsiRNAを処置すると、collagen 1a mRNAの発現が60-70%増加する(p<0.01)ことから、gadd45betaは抗線維化作用を持つと考えられた。gadd45betaは腎障害の初期に誘導される内因性の抗線維化因子であると思われた。抗線維化作用がどの段階で生じ、そこにDNAメチル化変化が関与しているかどうかについて現在検討を進めている。本研究によって、gadd45betaが腎障害を抑制する因子であることが明らかになった。薬物によって腎臓特異的にgadd45beta誘導することができれば、新たな腎臓病治療法の開発につながると考えられた。
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