研究課題/領域番号 |
22590880
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
稲城 玲子 東京大学, 医学部附属病院, 特任研究員 (50232509)
|
研究分担者 |
南学 正臣 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (90311620)
和田 健彦 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (90447409)
大瀬 貴元 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10568447)
|
キーワード | 小胞体ストレス / 尿細管 / unfolded protein response / 虚血 / 酸化ストレス / 翻訳制御 / microRNA / 腎臓病 |
研究概要 |
糖尿病性腎症、慢性腎臓病、急性虚血性腎疾患など慢性、急性の腎臓病において、尿細管における低酸素、それに伴う酸化ストレスや小胞体(ER)ストレスは共通して腎障害進展に関与する要因である。また近年、腎臓における様々な生理学的、病理学的応答系へのmicroRNA(miR)の関与が明らかとなってきおり、新規創薬標的因子として大いに注目されている。 そこで我々は本研究において、培養ヒト尿細管細胞(HK-2)を用いて低酸素-再酸素化を行う酸化ストレス群(HR)、およびtunicamycinもしくはthapsigargin処理を行うERストレス群(ER)におけるmiR microarray解析を施行し、ストレス下におけるmiR発現変動、及びその病態生理学的意義の解析を行ってきた。その成果の中で、HRやERに共通して発現が低下するmiRとしてmiR-205を同定した。miR-205 mimic(高発現)、あるいはinhibitor(発現抑制)を用いてその機能解析を行ったところ、miR-205を過剰発現させたHK-2では、野生型HK-2に比しHRストレス群やERストレス群、さらにH_2O_2(100μM,5分)による酸化ストレス群で細胞生存率が有意に上昇し、ストレス耐性を示した。それに対し,miR-205発現を抑制すると、それらストレスに対する高い感受性を示し,ストレス下での細胞生存率の低下や、酸化ストレスによる細胞内ROS量の増加などがみられた。 さらにmiR-205の標的遺伝子を探索したところ、そのひとつに低酸素応答経路、及びERストレス応答経路の転写因子(HIE ATF4)の蛋白分解を司るprolyl hydroxylase(PHD)1の翻訳制御に関与し、HIFやATF4の下流遺伝子である抗酸化酵素群(SOD1,HO-1)の発現を低下させることが示された。 以上,miR-205は尿細管細胞において酸化ストレスやERストレスによる細胞障害の表現型に影響を与える可能性が示唆された。その分子機序としてストレス障害時にmiR-205が低下するとPHD1蛋白発現が亢進し、それによるHIF経路やERストレス応答経路の不均衡が酸化ストレスを亢進させる可能性が見いだされた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化ストレス、及び小胞体ストレスによって発現が変動するmicroRNA群が同定され、その病態生理学的機能の一端が明らかにされつつある。その成果の一部は学会にて報告され、論文投稿の準備も進められている。
|
今後の研究の推進方策 |
酸化ストレス、及び小胞体ストレスによる細胞内シグナル伝達経路に関与する候補microRNAの機能、ひいてはストレス暴露細胞の表現型(細胞内レドックス、細胞死)にmicroRNAがどのように働くかをさらに詳細に検討する。 現時点までの成果は、in vitroを中心とした成果で、今年度はその裏付けとなるin vivoの研究を充実させる必要がある。予備的実験では、ラット尿細管上皮細胞において上記ストレス応答性microRNAの発現が確認されているので、病的な酸化ストレス、あるいは小胞体ストレス下でそれらmicroRNAの発現が変動するか否かを重点的に検討する。
|