健常男子3名(25-35歳)の尿を対象にして、Thermo LTQ-Orbitrap XLを用いて網羅的解析を行った。ペプチド試料は還元、非還元化でのSDS-PAGEにより分離後、ゲル内トリプシン消化により調製した。偽陽性率5%以下で同定された1434種のタンパク質のうち、2個以上のペプチドがマッチした1068種のタンパク質を対象にして、GO annotation解析、HUPOのHuman Plasma Proteome Projectから報告されている高信頼性の2389種のタンパク質からなるヒト血漿プロテオーム解析結果と我々が新たに解析を行った高信頼性の1815種のタンパク質からなるヒト糸球体プロテオーム解析結果との比較を行った。GO annotationによる解析結果は、尿タンパク質には細胞接着、炎症、免疫、血液凝固、ペプチド分解に関与するものが有意に多く含まれていることが明らかになった。また、血漿プロテオームとの比較により、尿にはおよそ30%の血漿由来タンパク質が含まれること、さらに、糸球体プロテオームとの比較によりおよそ20%の糸球体由来タンパク質が含まれることが示された。また、AKIの新規バイオマーカーとして報告されている多くが尿中で同定され、そのうち、KIM-1、NGAL、IL-18、Cystatin-C、Clusterin、L-FABP、Osteropontinについて、そのペプチドの質量数とMS/MSスペクトルから、TripleQ-MSを用いたSRM法による定量の条件(SRM transition)を構築した。また、報告されている多くのAKIバイオマーカーが近位尿細管障害のマーカーが多いことから、糸球体障害の新規マーカー候補として、尿中に同定され、かつ糸球体上皮細胞に局在する複数の蛋白質を見出し、同様に定量のためのSRM transitionを構築した。
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