研究課題/領域番号 |
22590881
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
吉田 豊 新潟大学, 医歯学系, 講師 (40182795)
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研究分担者 |
山本 格 新潟大学, 医歯学系, 教授 (30092737)
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キーワード | 尿プロテオーム / 分析化学 / 質量分析 / 多項目同時定量 / AKIバイオマーカー / 尿バイオマーカーパネル化 |
研究概要 |
昨年度の健常男子の尿タンパク質の網羅的解析で、AKIの新規バイオマーカーとして有望視されているタンパク質の多くが正常ヒト尿中にも同定されることを見出した。さらに、ヒト正常糸球体タンパク質の網羅的解析の結果との比較から、糸球体に特異的あるいは多く発現しているタンパク質が尿中でも検出されることが明らかになった。尿中AKIバイオマーカーの多くは、分泌型あるいは細胞質タンパク質であり、化学的あるいはタンパク質分解酵素による分解に抵抗性のタンパク質であり、尿中でも安定であるという特徴をもつ。さらに多くのバイオマーカーが、近位尿細管あるいは遠位尿細管に局在し、尿細管傷害を直接的に示すマーカーとなり得る。一方、これまで糸球体に局在し、糸球体の傷害マーカーとなり得る尿中バイオマーカーは報告されていない。以上のような背景から、AKIあるいはCKDの尿バイオマーカーの多項目同時定量の対象タンパク質として、NGAL、L-FABP、KIM-1、Podocalyxin、Megalinを選択した。これらのタンパク質の定量のためのペプチドの選択は、これまでの尿あるいは糸球体プロテオーム解析で実際に取得し、データベース化しているペプチドのMS/MSスペクトルから、三連四重極型質量分析計を用いたSRMモードで定量するための条件に合致したものを選び、さらに正確な相対/絶対定量を行うためにC末端のArginineあるいはLysineを安定同位体標識した合成ペプチドを入手し、現在定量系の至適化を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三連四重極型質量分析計を用いたSRMモードによるタンパク質定量は、最近広く用いられるようになったが、特異性の点で新たな問題点も指摘されている。それは定量対象となるタンパク質のトリプシン消化ペプチドの中から厳格な条件に適うものを選択しないと正確な定量ができないことに起因する。このためには、実際に質量分析計でMS/MSスペクトルが取得できることが確認されており、タンパク質に特異的な配列を持ち、化学的に安定で、翻訳後修飾を含まないペプチドを選択する必要がある。この条件に適うペプチドはかなり数が限定されることになるため、準備段階として質量分析計による対象タンパク質の質量分析による解析が必要になり、概ね適切なペプチドの選択に至ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
すでに定量の対象とするタンパク質と定量のためのペプチドの選択が終了しているので、実試料(尿)を用いた定量系の確立が近々の課題である。内部標準として用いる安定同位体標識合成ペプチドを正常尿に添加することにより、定量感度・特異性を検討する。次の課題は、AKIの病歴の有無が明らかな尿を用いて、同時多項目定量により時間的な変化を測定し、バイオマーカーとしての意義づけを行うことである。現在日本腎臓学会の「尿のバイオマーカーパネル化に関する小委員会」で尿のバンキングを行っており、試料の入手の準備は整ってきた。
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