(1) 前年度までに、標的にするバイオマーカーに帰属するペプチドとそのMS/MSスペクトルを取得するために、健常男子3名の早朝第二尿を試料として質量分析計による網羅的解析を行った。その結果、AKIの尿中バイオマーカーとして有望視されているタンパク質の多くが同定され、目的のペプチドとMS/MSスペクトルを取得した。 (2) これらのバイオマーカーの多くは、近位尿細管あるいは遠位尿細管に局在し、尿細管傷害を直接示すマーカーとなり得ると考えられる。しかし、糸球体に局在し、糸球体の傷害マーカーとなり得る尿バイオマーカーは報告されていない。そこで、正常糸球体プロテオームと正常尿プロテオームを比較し、尿中に出現するタンパク質で、糸球体に特異的もしくは高度に選択的に発現しているタンパク質をHuman Protein Atlas databaseを用いて選択し、糸球体傷害マーカーになり得るタンパク質候補の絞り込みを行った。 (3) 以上の検討から、AKIあるいはCKDの尿中バイオマーカーパネルとして、尿細管傷害マーカーとしてNGAL、L-FABP、KIM-1、Megalinを、糸球体傷害マーカーとして、Podocalyxin、SHPS-1、Crumbs-like protein 2を選択した。現在、TripleQ-MSによる多項目同時定量法の確立のため、検討を行っている。このためには、臨床尿試料の入手、定量の対象となるタンパク質ごとに少なくとも2つ以上のペプチドのMS/MSスペクトル資料と、内部標準として用いる、それぞれのペプチドに対応する安定同位体標識合成ペプチドが必要であるが、ほぼ準備は整っている段階である。
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