ヒト尿サンプルを使った尿バイオマーカーの検討に関しては,これまでに収集した約200検体を用いて、十数種類のケモカインを中心とした炎症関連因子の測定を行い、経時的な変化と臨床情報との検討を行った。病態や予後と関連する因子が同定されており、その感度、特異度などから臨床的な有用性が期待される。現在特許申請の準備を行っている。また、得られた結果のvalidationのためのサンプル収集も順調に進んだ。 一方、動物実験におけるそれら因子の検証も進めた。虚血ストレス後の腎および培養尿細管上皮細胞からの遺伝子発現を網羅的に検討し、これまで臨床サンプルで候補に上がった因子、あるいはその関連因子の発現について検討を行った。この基礎的検討からは、虚血障害に関連した既知及び未知の分子が,vivoおよびvitroの両面から抽出された。既知の分子の一部に関しては、これまで挙げてきた候補因子との関連が明らかになった。 さらに、脂肪由幹細胞の検討で昨年までの課題として残っていた虚血障害軽減の機序に関しても検討が進んだ。虚血障害後の組織修復時に発現する分子の解析の中から,胎生期に発現する,転写関連因子であるPax遺伝子群の一部の再活性化が確認された.発現は虚血障害の主要な標的になる尿細管上皮細胞を主体に発現した.脂肪由来間葉系細胞との関連は,現時点では必ずしも明らかではないが,再生,修復と発生の類似点は以前より指摘されており,胎生期に発現し,成体ではいったん発現消失する分子が,虚血障害後再活性化する事は,大変興味深い所見である. 本年度も,バイオマーカーおよび脂肪由幹細胞に関して多くの新たな知見が得られた.本研究から得られた知見は,急性腎障害の病態解明および臨床応用に向けて,多大な貢献をするものと考える.
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