研究概要 |
平成23年度までに、血清シスタチンC(Cys-C)値、血清クレアチニン値から推定した糸球体濾過値(eGFR-cr)、尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)の3つの腎マーカーと心血管病発症との関係を検討した結果、UACRと心血管病発症との関連が最も強く、Cys-C値やeGFR-cr値と心血管病発症の間に有意な関連を認めなかった。平成24年、日本人用のCys-C値を用いた糸球体濾過値の推定式(eGFR-cys)が発表された(Am J Kidney Dis 2013; 61: 197)。そこで、本年度は、平成14年の久山町健診を受診した40歳以上の久山町住民3,328人(受診率78%)のうち、研究参加への非同意者、心血管病既発症者、血液や尿検体未採取者を除いた3,041人を平均7.1年間追跡した調査の成績を用いて、eGFR-cys値と心血管病発症や総死亡の関係を検討した。追跡期間中に154例の心血管病発症と235例の死亡を認めた。eGFR-cys値を≧90、75-89、60-74、<60 ml/分/1.73m2の4群に別けて心血管病発症率および総死亡率(対千人年)を検討したところ、それぞれ4.1、9.6、22.1、26.8と4.2、13.8、29.8、85.2とeGFR-cysの低下に伴い直線的に増加した(傾向性p値<0.001)。年齢、性、高血圧、糖尿病、総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、高脂血症薬服用、肥満、心電図異常、喫煙、飲酒、運動による多変量調整後も、eGFR-cys値の低下に伴い心血管病発症や総死亡の相対危険は上昇した(心血管病:1.00、1.19、1.70、1.58、傾向性p値=0.07;総死亡:1.00、1.13、1.14、2.28、傾向性p値=0.001)。Cys-Cにより算出されたeGFR値の低下は、心血管病発症や死亡の危険因子であった。
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