研究概要 |
糖尿病性腎症例(DN)を含む腎臓病における血中分泌型α-Klotho(sKL)蛋白の臨床的意義,および骨代謝マーカーとの関連性について,ヒトサンプルを用いて検討した.腎生検を施行した228例を対象とし,腎生検時に採取した血液・尿で,血清カルシウム.リン・活性型ビタミンD値・副甲状腺ホルモン値・sKL量・FGF23量および尿中カルシウム排泄量を測定した.腎機能はestimated GFRを用いて算定した.腎生検凍結切片よりmRNAを抽出し,α-Klotho(KL) mRNA発現量をreal-time PCR法で定量的に検討した.その結果,(1)血中カルシウム-リン値の恒常性はeGFRが30ml/min以上の症例では維持されていた.(2)腎臓でのα-KL発現量は,腎機能の低下とともに早期より有意に低下した.(3)血中sKL量は,eGFRが60ml/min以上の症例では,腎機能の低下に伴い有意に低下したが,eGFRが60ml/min以下の症例では低下せず,一定の範囲内に留まっていた.(4)血中VitD値は,eGFRが90ml/min以下の症例で,腎機能の低下に伴い有意に低下した.(5)血中FGF23値は,eGFRが90ml/min以下の症例で,腎機能の低下に伴い有意に上昇した.(6)血中intact PTHは,GFRが60ml/min以下の症例で,腎機能の低下に伴い有意に上昇した.eGFRが60ml/min以上の症例では,血中α-KL量は腎臓でのα-KL発現量および腎機能と有意な相関関係を示したが,60ml/min以下の症例では認めなかった.また,その他骨代謝マーカーとの有意な相関を認めなかった.しかし,これらパラメーターの所見で糖尿病性腎症に特異的なものは認められなかった.以上のことから,腎機能障害の進行に伴い,腎臓でのα-KL発現量が低下,ネフロンの減少→(腎臓でのリン排泄量が低下)→FGF23値の代償的上昇→VitD値の低下→(カルシウムの低下)→PTHの上昇となっていることが推察されるが,分泌型α-KL量はカルシウム・リン代謝異常に大きな影響を及ぼさなかったと考えられる.腎臓病例では,早期の段階からカルシウム.リン値の恒常性を維持するためにα-Klotho-FGF23系シグナルが作用しあい重要な働きをすることが示唆された.早期の腎臓病から,これらのパラメーターが骨病変および心血管病変の形成に関与する可能性が示唆され.今後の詳細な検討を要する.
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今後の研究の推進方策 |
これまでのヒト臨床サンプルを用いた検討では,分泌型α-Klotho蛋白のカルシウム・リン代謝への直接の影響はないように思われる.しかし,分泌型α-Klotho蛋白およびFGF23蛋白が,カルシウム・リンの恒常性を維持するため腎臓病では早期から作用していることが明らかとされた。今後は,これら分泌型α-Klotho蛋白およびFGF23蛋白の骨組織および血管に対する作用につきさらに検討を進める.一方で,糖尿病モデルマウスを用い,糖尿病性腎症に特異的に認められるカルシウム・リン代謝異常につきα-Klotho-FGF23系シグナルの関与を明らかとしていく.
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