我々は腎臓内でのTrps1の発現様式について検索を行った。胎生腎ではTrps1は尿管芽上皮細胞、cap間葉細胞および腎小胞に幅広く発現していることを見出した。Bmp7が腎臓の発生に重要であることから、Trps1との関係を検索したところ、Trps1がBmp7の下流で働くことを示した。Trps1欠損マウスではネフロン形成において、間葉上皮転換が障害されること、また尿管芽の枝分かれ(branching)が抑制されることを示した。一方、成人マウスの腎臓ではTrps1は尿細管上皮で発現していることを見出し、片側尿管結紮による腎尿細管間質線維化モデルにおいてTrps1ヘテロ欠損マウスでは野生型マウスに比較して、上皮間葉転換による線維化の程度が亢進することを見出した。In vitroおよびin vivoの実験でTrps1はSmad7の分解に関連するArkadiaを抑制しているが、Trps1が減少することによりArkadiaが増加してSmad7蛋白量が減少することにより、結果的にリン酸化Smad3が増加してTGF-betaが亢進するという分子機構を示した。またTrps1欠損マウスにおける腎臓発生においてもArkadia1などの発現亢進により、TGF-beta/Smad3シグナルが亢進していること示した。これらのことよりBmp7とTGF-betaはお互いに陰と陽の関係にあり、Bmp7はTrps1を発現させることによりTGF-betaシグナルを抑制するという分子機構が明らかとなった。
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