高齢化社会を迎えつつあるわが国では、透析導入となる末期腎不全の原因疾患にも大きな変化が現れており、いわゆる慢性糸球体腎炎が減少する一方、加齢性変化を基礎とする腎硬化症~萎縮腎が増加している。また近年、老化の分子メカニズムが徐々に明らかにされ、SIRTファミリーの関与が注目されており、その作用機序のひとつとして細胞内情報伝達系~転写因子であるNFkB経路の抑制が報告されている。老化腎ではNFkB経路が活性化されており、本研究では遺伝子改変動物を用いて腎尿細管上皮細胞および糸球体ポドサイト特異的にNFkBを持続的に抑制することで、NFkB経路の腎老化における関与を検討した。尿細管上皮細胞特異的にNFkB経路抑制因子であるIkBを発現させてマウスでは、20ヶ月齢時の腎組織において尿細管周囲間質の細胞外マトリックスの沈着領域がコントロールの野生型マウスより拡大していた。これはわれわれの仮説とは逆の結果であった。また20ヶ月齢での腎組織においては明らかな糸球体硬化の発症・進展は認められず、糸球体ポドサイト特異的なIkB発現の糸球体変化への効果は確認されなかった。現時点ですべてのサンプリングが終了して、腎パラフィン固定組織切片を用いた光学顕微鏡的な評価のみが終了している。今後凍結組織を用いたSA-bGal染色、パラフィン固定組織を用いた免疫組織化学、腎RNAサンプルを用いたqPCR、腎抽出タンパクを用いたウエスタンブロッティングを進めて、NFkB経路・老化・senescenceおよび線維化関連の遺伝子/分子の挙動を評価し、現時点までの知見では説明のつかない腎老化プロセスへの尿細管上皮細胞におけるNFkB経路活性化の新たな関与について検討していく。
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